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第17話

(あっちもこっちも獣人ばかりだな)


ミアの故郷を歩くリックは周囲にいる多数の獣人に遠巻きからジロジロと見られていた。

興味はあるが、近づくのは怖い。そんな獣人達がリックの歩く道を挟むようにズラリと並んでおり、リックもそんな獣人を興味深そうにキョロキョロと見渡していた。


「前を見て歩け」


あまりにも周囲を見渡しすぎたのか、リックの後ろでリックの監視をしている人間嫌いの門番が剣の柄で小突いてくる。

その様子を見兼ねたのか、リックの前を歩いて村長の元まで案内をしていた門番がこっそりとリックに話しかけてきた。


「すまんな…あいつ人間に家族を殺されてるんだよ」


「………別に何とも思ってないですよ。正直、人間の方が獣人への悪感情は強い」


「ミアちゃんを助けてくれたし、俺としてはゆっくり人間と語り合いたいんだけど…まぁ、この村に人間をよく思わない奴は多い。ここで暮らしていくならそいつらともうまく付き合っていかないと」


「………ここで暮らせるのか?」


「それは長次第かな。長が人間に対してどう思っているかは知らないが、人間を直々に村の中に入れていたから少しは期待していいんじゃないか?」


「……………………だといいな」


どうしても嫌な予感が拭えないリックはばつが悪そうに曖昧な返事をした。

門番はそんなリックに不思議そうにしながらも目的地についたことをリックに告げる。


「着いたぞ、村長の家だ」


「………結構いいところだな。家というより屋敷だ」


リックは門番の案内で村長の屋敷に入ると、執事やメイドと思わしき獣人達が出迎える。

門番は執事に何かを伝えると執事は「こちらに」とだけ声をかけると屋敷の中を進んでいく。


リックが村の中を進んでいる時も思ったことだが、村という響きには似つかない豪勢さだった。

立ち並ぶ民家はあばら屋のようなものを想定していたが、実際には帝都の民家と遜色ない技術が使われたであろう民家が立ち並んでいる。

村長の屋敷の廊下には何の意味があるのか、一定間隔に壺や絵が置いてあり、床にはカーペットがひかれている。

その意味のない装飾品一つ一つがリックが想像していたイメージを覆すのに十分な物だった。


リックはそんなことを考えながら執事の先導のもと屋敷をしばらく歩いているとようやくとある部屋に到着する。

案内をした執事は立ち止まった部屋の扉を姿勢を正してからノックした。


「お客人をお連れしました」


執事がそう扉に向けて声をかけると、中から村長らしき声が聞こえてくる。


「客?すまないが、先客がいる。応接室で待たせ」


「お客人の中にはミア様がおります」


「なっ!まさか、そんな………わかった。通しなさい」


「失礼します」


執事が扉を開き、現れた部屋の1番奥には豪華な机と村長であろう男性の獣人が座っており、その男性の後ろには1人の女性の獣人が佇んでいる。

そして、部屋に入ってすぐの所に置いてあるソファーにはリック達に背を向けて1人の男が座っていた。


(こいつ…頭に耳がない。門番が言ってた人間か)


背後の扉が開いたというのにソファーに座る人間の男は気にした様子もなく紅茶らしき物を飲んでいる。

リックは村長とその後ろにいる女性をチラリとだけ見ると、目の前で背中を向けている人間の男を若干の警戒心を持ちながら観察していく。


「パパ!ママ!」


警戒するリックの隣にいるミアは嬉しそうに声を上げると、小走りで村長の元へ走り寄って行く。


(ミアは村長の娘。それで、ミア様か。村長の後ろにいるのは村長の奥さん、つまりミアの母親か)


リックはさきほどチラリと見たミアの両親の顔を思い浮かべて少し違和感を覚えた。

普通ならばこの状況は娘と再会したことをおおいに喜んでいるはすだ。

現にミアの両親は再会を喜び笑顔を見せている。だが、なんとなくその笑顔がぎこちないとリックは感じていたのだ。


「おぉ…本当にミアだ!無事だったのか!」


村長の歓喜の声にリックはもう一度チラリとミアの両親を見た。

そこには心の底から喜ぶ二人がおり、さきほどの違和感は気のせいだと結論づける。


「パパ!ママ!ただいま!」


「心配したんぞ、ミア!今まで何を!?」


「そうよ、心配したのよ!ミアまで帰ってこないと思ったら…私」


感動の再会だが、村長はその場にいるリックがいるせいで僅かに警戒心を残さずにはいられなかった。

そのことはリック自身もそのことは察しているが、立ち去るわけにもいかない。

なら、邪魔者は早く退散するために、とっとと要件を片付けようと一歩前に出た。


「ミアの父上、この村の長ですね」


「………人間。君は何だ?」


「この人はね、リック!私を助けてくれた人だよ!」


「………………ミアを助けた?………ほぅ、なるほど」


「それは帝都治安部隊を退けたということですか?」


リックが村長と話していると、突然別の方角から声がかかり、リックがその方角に視線を向けると黙って紅茶を飲んでいた人間の男がいた。


「………誰だ?」


「ただの情報屋です」


「情報屋?」


「あ、あぁ!この男はミアの行方を探すために私が招いたんだ!」


「………あなたはこの獣人の村の村長ですよね?なぜ、人間の情報屋を頼りに?そもそもどこで知り合ったのですか?」


「そ、それは…」


「こちらから取引を持ちかけたんですよ」


「人間が獣人に?」


「えぇ、いつの時代も情報を必要とするのは弱者の方です。強者は情報などなくても力でねじ伏せようとしますからね。わざわざ情報を買おうとしない。

この辺りの未踏地域と獣人の目撃情報を照らし合わせれば獣人の集落の位置を特定することは難しくないですしね」


「そうなんだよ!外の情報を手に入れるのに彼を使っていて、今回はミアの情報を得るために呼び立てたのだよ!」


「村長の言う通り。しかし、今回は情報を売る前に目的の娘さんが帰ってきてしまって徒労に終わってしまったよ」


「ご足労をかけてしまい本当に申し訳ない」


「村長が気にすることではない。だが、手ぶらで帰るわけにもいかないからな。何か情報を持ち帰るとするよ」


「…………………左様ですか。では、準備をしますので応接室で待っていてください」


「じゃあ、ここまで疲れたし休ませてもらうよ。情報の件は頼むよ」


そう言うと情報屋はその場を立ち去ろうとするが、ここまで成り行きで付いて来た人間嫌いの門番が行く手を塞ぐ。

他の門番が人間嫌いの門番の肩を引き、退かそうとするが、意地でも動こうとしない。


道を塞がれた当の情報屋は何が面白いのかクスクス笑ってから村長を見るだけだったが、一方の村長は門番の行動に焦りを隠しきれずにいた。

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