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第16話

(門の前には3人。塀の上に監視台が見える範囲で2つ、1つにつき1人だけ見張りがいるな)


嬉しそうに駆け寄るミアと違い、リックは浮き足立っている。

いざという時のために門番の数を確認しながら、ミアの後について門へと近づいて行くと、監視台の見張りの1人がリックとミアの存在に気が付いた。


「貴様!おい、止まれ!」


監視台の獣人がそう声を上げると、他の見張りもリック達の存在に気が付き、身構えながら警戒する。

リックはやっぱりこうなったと心中でため息を吐きながら抵抗する意思がないことを示すために両手を頭上に上げた。


「ただいま!」


一方のミアは笑顔で門番の方へ駆け寄り、門番もリックと一緒にいるミアを見て、目に見えて動揺しだした。


「………ミ、ミアちゃん?」


門番はミアのことを知っているのか、構えを解いて飛びついてくるミアを受け止めようとしていた。

だが、その視線はリックの一挙一動を見逃さないようにと警戒し続けている。

リックがチラリと監視台の方を見れば、見張りはクロスボウの照準をリックへと向けていた。


「ミアちゃん、今までどこにいたんだ?皆心配してたんだよ」


門番の1人はミアに心配そうな声をかけながら、さりげなくミアを庇うように前に出る。

他の2人の門番もこっそりとリックを挟むような位置に移動しており、リックが不審な行動をとればすぐにクロスボウから矢が放たれ、逃げれば騎士に斬り伏せられるのだろう。

だが、リックには魔法がある。魔法を使えばこの状況から切り抜けることも難しくない。


「おい、人間。貴様がミア様を拐ったのか?」


リックの正面に立つ門番が剣の切っ先を向けながら威圧的な声色でそう言った。

ミアの様子から危害を加えてないことはわかるだろうが、最初から敵視されているのが獣人と人間の間にある種族の壁だろう。


(だが、人間だったら獣人の意見すら聞こうとしない。まだ、話し合う余地があるだけ獣人の方がマシだな。

………ミア様?ミアはこの村でどういう立ち位置なんだ?)


「ち、違うよ!リックはミアを助けてくれたの!」


「………ミア様。お言葉ですが、仮にそうだとしても人間を簡単に信用してはいけません。ましてや、村まで連れてくるなんて」


「で、でもリックは私を助けたせいで人間社会で生きていけなくなったんだよ!」


「それは可哀想ですね。ですが、ここに連れて来た以上は殺すしか選択肢がなくなってしまいます」


「殺すのはダメ!絶対ダメ!」


「しかし、人間に村の位置を知られてしまいました。これは由々しき事態です」


「リ、リックがこの村で暮らしていけば問題ないでしょ!」


「人間がこの村で暮らす?冗談ですよね?」


「冗談じゃないもん!本気だもん!」


「それが何を意味するかわかって言っているのですか?」


言い争うミアと門番のやり取りをリックは抵抗する意思がないことを示すために両手を上げながら眺めていた。

頑なに人間を入れることを嫌がる門番を前にリックは半ば諦めかけていたが、あることに気が付きその考えを正す。


(あの門番が極端に人間を嫌っているだけ、か)


ミアと言い争う門番以外の獣人は、言い争う2人を前に止めようにも止められずにオロオロとしているのみだった。

監視台の上の獣人はリックからクロスボウの照準が外れていることを気にも止めず、言い争う2人の様子を見てるぐらいだ。


今なら人間嫌いの獣人以外を味方につけて、うまく言いくるめることができれかもしれない。

つまり、チャンスは今しかないのだ。


「………口を挟むようで悪いが、少しいいか?」


「おい、人間。わきまえろ」


「ま、まぁまぁ…そう言わずに話だけでも。な?」


この状況をよく思ってない門番が、リックの思惑通りに擁護する発言をする。

人間嫌いの獣人は不服そうな目をするが、周囲の様子に気が付きおずおずと引き下がった。


「………なんだ、人間?くだらないことだったらタダじゃ済まんぞ」


「殺す気のくせによく言う」


「何か言ったか?」


「なんでもない…そんなことより、君の独断で俺を追い払うとしているがいいのか?」


「いいに決まってるだろ。相手は人間だ、議論の余地はない」


「そう、人間だ。知ってるか?人間には魔法がある」


「………そうらしいな。だが、使えるのは人間の中でもごく一部とか」


「俺は使える」


「………だから?」


「それも魔法使いの中でも貴重な治癒魔法が使える。生きていればどんな怪我でも治すことができるし、病気にすら効果がある。些細な風邪から不治の病、果ては疲労の回復、精神的な物にすら可能だ」


「………ふざけてんのか、そんなバカな話があるわけ」


「ある。獣人のお前らにはピンと来ないかもしれないが、それだけ治癒魔法というのは規格外のものだ。帝国には魔法が使える人間が多くいるが、治癒魔法使いは他の魔法使いよりかなり優遇される」


「さっきからなんだ? ここに自慢でもしにきたのか?」


「わからないか?魔法が使えない獣人にとって魔法使いが味方につくチャンスを無下にはできないはずだ。ましてや治癒魔法。人間に襲われて怪我をする機会も多いだろうここの獣人には治癒魔法使いを看過できるわけがない。少なくとも一介の門番が判断していいことではないと思うが」


リックの話に納得したのか、目の前の門番は悔しそうに歯軋りを立てている。

リックは今後この村で平穏に暮らしていきたいと考えており、できれば穏便に村に入りたく思っていた。

だが、村に入らなければ何も始まらない。

信頼関係は後からでも築くことはできるが、それにはまずはスタートラインに立たなかればならない。例え最悪のスタートラインだとしてもだ。


ただあまり良い方法でなかったことはリック本人も自覚している。

その証拠にリックの味方をしていたはずの見張りも顔を引くつかせていた。


「………仕方がないが入れてやる。言っておくが治癒魔法がどうのこうのだからじゃない。ミア様がどうしてもと言うからだ。それと、入れるというのは一時的、最終的な処遇は長が決める。それまで、我々の監視の元で大人しくしていろ」


「それじゃあ、案内頼むよ」


「チッ、偉そうに。クソ、今日は厄日だ。まさか、1日に2人も人間を入れることになるとは」


「………2人?もう1人ここに来たのか?」


「あぁ。お前が来る少し前にな。もちろん、入れる気はなかったが、村長直々に入れるよう言ってきて仕方なく」


「………」


1人だけとはいえ、すでに人間がこの村に入っている。

その事実がリックの心をざわつかせていた。何かとてつもなく嫌な予感がするのだ。

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