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第12話

陣形を組み周囲を警戒するクラー達だが、攻撃してきたと思わしき敵の姿は探せど探せど見つからなかった。

夜の森は暗闇な上に遮蔽物も多い。ここに隠れている者を見つけるの至難の業だろう。


だが、一方の帝都治安部隊はランプや松明で光源を確保しており、敵からは一方的に位置を知られているということだ。

敵が単独なのか複数なのかもわからないが、このままだと遠距離から衝撃魔法でなぶり殺しにあるのは目に見えていた。


「………クラーさん、どうします?」


「いつも通り。夜の森で獣人を相手取った経験は何度もあるでしょ。それと一緒」


「ですが、今回の敵は魔法を使う。魔法使いを相手取った経験はありません。流石に今まで通りとは」


「何を怯えてるの?いつも通り…私達は目の前の敵を倒すだけ。私達は訓練を積んできた、碌に戦ったこともない奴に負けるハズがない」


「碌に戦ったことないって…敵のこと知ってるんですか?」


「知らない。でも何となく予想はあんたらもついてるでしょ?

獣人を匿っていたリック・べリューとか言う学生。リックの魔法学校の成績、実際にこの目で見るまでは半信半疑だったけどね」


「………成績ですか?」


「魔法学校始まって以来の才能の持ち主だとか。確かにあの衝撃魔法に加え、治癒魔法まで使えるとなると、稀代の才能って言えるでしょうね。恵まれ過ぎて、好き勝手生きても勝ち組確定とでも思ったのかしら?大人しく捕まっていれば才能に免じて許されただろうに…帝都治安部隊に反逆して隊員を殺めてしまった、これな許されない。物事には限度がある。リックとかいう男は輝かしい未来をドブに捨てた、ただのバカよ」


「………確かにバカですが、実力の伴ったバカです。ここにいるということな隊長達の本隊を振り切ったということ。生半可な実力では不可能です」


「リックほどの魔法を使える人物なら逃げるだけならそう難しくないはず。だけど、私達相手から獣人の小娘を助け出すというのは逃げるのとは訳が違う。

所詮は魔法学校という烏合の衆の中でチヤホヤされて付け上がっただけのタダのガキ。生まれながらくっついて来た魔法の才能に溺れ、過信している。魔法の才能だけでなく、剣の腕前や努力が必須の集団…帝都治安部隊が負ける道理はない」


「………クラーさんの発言はごもっともです。ただ、僭越ながら一言。クラーさんこそ帝都治安部隊を過信しているのではありませんか?確かに我々は強い。ですが、リックの実力は本物です。負けるわけがないなどと油断してると足元を掬われますよ」


「別に油断などしていない。ただ、魔法しかない個人と、剣も数も経験も優っている。魔法以外のありとあらゆる要素が上回る集団。その事実を客観的に評価しただけ。そして、これは全員が死力を尽くし戦うことを前提としている」


「………なるほど。では、我々も前提通りに死力を尽くすといたします。それで、何か策は?」


「いつも通り。先の衝撃魔法で敵のおおまかな方向はわかったでしょ。その位置を囲むように火炎魔法を放つ。だけど、一箇所だけ逃げ道を用意してそこで待ち伏せる。単純だけど、確実な戦法。

でも、今回の相手は魔法を使える。獣人だったら囲まれた火を抜ける術はないけど、魔法なら火を抜ける何かを持ってるはず。

だから、火をいつもより厚く張ることにより対処する。この炎の壁を抜けるにはそれなりの規模の魔法、それも遠くから見ても気付くぐらいの規模の魔法を使う必要になる。そんなレベルの分厚さの炎を張れば私達は待ち伏せしつつ敵が火の包囲を抜けたかどうか判断できるというわけ。

もちろん、いざという時のために獣人の小娘に…3人ぐらいの隊員を残しとく。大規模の火事を起こすから光源は確保出来てるから3人いれば死角はないでしょ。

………何か質問は?」


クラーの問いかけに隊員達は首を横にふる。

火炎魔法で逃げ道を塞ぎ、わざと1つだけ残した逃げ道で待ち伏せをする、帝都治安部隊の常套手段だ。

いつもの作戦をいつも通り遂行するだけのこと、質問などあるはずがなかった。


「では、いつも通りに」


クラーの一声に帝都治安部隊の面々は規律よくそれぞれの役割りを全うすべく動き始める。

3人の騎士がミアを連れ先頭の余波に巻き込まれぬように距離をとり、残った騎士は左右に広がりリックがいるはずの方向に火炎魔法を放つ。

火炎魔法により起こされた炎は、魔法を発動したものによりある程度なら自由に操ることができる。

だが、リックの予測位置を大きく囲むように燃え広がるような炎を操るのは並大抵の魔法使いにはできないことだ。


魔法には基本魔法と特殊魔法の2種類があり、基本魔法は火炎魔法や衝撃魔法といった魔法使いであれば誰でも発動させることができる魔法で、特殊魔法は治癒魔法や付加魔法といった魔法使いの中でも極々一部の者しか発動できない魔法である。

特殊魔法は発動できる魔法使いすら数少なく、さらに発動できでも1種類のみしか発動が叶わない。

そのため、特殊魔法を使える者は貴重な人材として重宝されるのだ。


だが、特殊魔法を使えない者は皆同じような魔法を使うのかと言ったらそうではない。

基本魔法にも得意不得意が存在するのだ。


同じ衝撃魔法でも発動する人物によってその威力、操作性、範囲はまちまちである。

同じ基本魔法でも衝撃魔法を高威力で放てるが、火炎魔法はマッチの火程度の火しか出せないなど、人によって様々だ。


そして、一般的に1人の魔法使いが最も得意とする基本魔法は1つだけと言われている。

火炎魔法を自分の才能を十全に生かして発動できる者は、他の基本魔法はその半分程度しか才能を発揮できないと言われていた。


つまり、基本魔法は魔法使いであれば誰でも発動はできるが、高威力で発動できる魔法は1つしかなく、その魔法は人によっては様々ということだ。


帝都治安部隊はそんな中から火炎魔法を得意とする者を優先的に集めていた。

隊長であるゲオルがその攻撃範囲と炎としてその場に残る持続性を、人気のない森で素早い獣人を相手取ることの多い帝都治安部隊に合っていると判断し、積極的に集めたためだ。


火炎魔法を得意とする魔法使いが複数いる帝都治安部隊だからこそ、敵を炎で囲うという荒業が可能であった。


「さっきの見てわかったと思うけど、リックと思わしき敵の得意魔法は衝撃魔法。衝撃魔法で炎を吹き飛ばして消しても、すぐに周囲の炎が燃え移り、この炎の包囲網を突破する余裕はない。

必ず奴はここを通る。チャンスはそこよ」


クラー達はわざと作った火の包囲網が薄い所で待ち伏せすべく待ち構える。

この広い森に身を隠しながら衝撃魔法でちまちまと攻撃されたらクラー達にそれを防ぐ手立てはないが、敵の通り道さえ絞ってしまえば対処はそれほど難しくはないのだ。


「クラーさん。リックは殺しますか?」


「治癒魔法は貴重だからね。ここまで私達をコケにしたことはムカつくけど、勝手に殺したら後で何を言われるかわかったもんじゃない」


「………しかし、ついさっき限度を超えたってクラーさんおっしゃいましたよね?」


「殺さなきゃいいのよ。ちょうどあの獣人の小娘の代わりに私のストレスの捌け口が現れた…これは聖女様に感謝しなきゃね。まさか、止めないよね?」


「リックに関しては隊長は何も言ってません。それに、仲間を殺されているのです、止めるはずないじゃないですか。

それよりも、私はリックがこの包囲網に入っているかの方が心配です」


「それは大丈夫。これだけの炎の包囲網、魔法を使えるリックだからこそ想像すらしてなかったはずよ。

これだけの規模の火炎魔法を駆使するには私達の大多数が火炎魔法を得意魔法としないと不可能。だけど、リックは衝撃魔法で私達を攻撃した際に私達の人数を見て、火炎魔法を得意とするのは居ても1人とかんがえたはず。得意魔法は人よって様々、故意に集めでもしない限り、得意魔法が同じ魔法使いが大多数を占めることはありえない。

そう、リックは魔法の知識があるからこそ、今回の包囲網に対応できていないということよ」


クラーの言葉に納得した騎士達は再び包囲網の唯一の出入口に注意を向ける。

一時は初の魔法を使える敵に動揺したが、蓋を開けてみたらどうということはなかった。

クラーの言うとおり、いつもと同じだったのだ。


騎士達はいつも通りに炎の包囲網から逃げ出してくるであろう獲物を今か今かと待ち構えていた。

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