怨念 ※
崖の上に齢十八ほどの少女が立っている。少し傷んだ漆黒の髪を靡かせ、穢れを知らぬ綺麗な瞳が涙に濡れていた。
彼女の両手には人形が握られていた。右手には男の子、左手には女の子。それぞれの首を絞めるように握るその指は、まだ若いのに節くれだっている。掌に食い込んだ爪が皮膚を抉り、痛々しい痕をつくる。やがて、ポロリと捥れた人形の首が哀しい音を立てて地面に落ちた。
「こっちはあたしを裏切ったあの男……こっちはあたしからあの男を奪った泥棒猫……幸せそうにしているのが憎い……呪ってやる……呪ってやる……呪ってやる……!」
少女はブツブツと怨みがましく言った。
ポケットからパラコートの入った小瓶を取り出し、呷った。直後、強烈な吐き気を覚えて口元を押さえた彼女だったが、それも一瞬、悪事に手を染めた人間が快楽に嗤うような、そんな表情を浮かべた。そして、そのまま意識を失った。支える力を失った体は、崩折れるように崖から転がり落ちる。
落ちた先は、蒸気機関車の走る線路の上。ちょうど向こうから走ってきたその汽車と衝突し、腹を裂かれたマグロのように彼女の体からブワッと血が飛び散った。木っ端微塵になった体は、あたりに肉片を撒き散らし、離れた地点さえも生々しい血肉で染め上げた。
その地獄絵図に遭遇した人々は、口を揃えてこう言った。
『彼女は泣いていた』
少女の体から血が飛び散る様は、まるで彼女自身が泣いているかのようだった――……。




