世界最強の『優劣決定試験』
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今は3月中旬。春の暖かさが十分に感じられる日。双子は『優劣決定試験』を受けるため、中学校の制服に身を包み《優等生剣魔士育成機関学校『第1課』》の門をくぐろうとしていた。
受け付けは本館の玄関前で行われる。
双子もそこに並び受け付けをした。
受け付けをするとあるカードが受け渡される。
『優劣決定試験許可証』
男のカードには『No.186 刈星蒼翔』と書かれており、女のカードには『No.187 刈星緋里』と書かれていた。異性の双子である。
双子はそのカードを受け取るとそのまま校内探索をするわけではなく、集合場所である講堂へと向かった。ここの講堂は約1000人が入れるような大きさで、一種のドーム化だ。
試験の前に挨拶等があるのだ。
そこまで人はいなく、どこでも自由に座れるのだが、双子は後列の方に二人掛けて座った。
始まるまであと30分。
早い、と思うかもしれないが、双子にとってこれは普通だし、やる事もない。ここで2人で仲良く話して待っているのが1番いいのだ。
双子は仲良く喋り、残りの時間を満喫した。
講堂のほとんどが埋め尽くされ、流石に暑苦しくなる。
そしてついに始まろうとしていた時。
ステージの上に1人の生徒が出てきた。
勿論《優等生》である。赤と紺色の制服を着ているから間違いないだろう。
「皆さんようこそ《剣魔士育成機関学校》へ――」
「「――」」
その生徒が喋るだけで、先程まで騒がしかった講堂が一瞬で静まり返り、全員がその生徒へと視線を向ける。
「私は今期生徒会を務める、剣採愛歩です。以後お見知りおきを……『優劣決定試験』はもうすぐ始まります。今しばらくお待ちください――さて、皆さんは何故この学校に入ろうと思ったのですか?」
そうか、つまりもう既に試験は始まっている――
双子の男――刈星蒼翔は感じていた。この講堂にいる受験生全てを監視する『想力分子』の波動を。
『想力分子』。日本が発見した新たなる分子。世界的な快挙でありまた、世界が動き出した発見でもあった。魔法と呼ばれるものは、今まで超能力的なものであり、科学的証明ができないものとなっていた。だがこの『想力分子』の発見によりこれが超能力的なものではなく、人間のスキルと証明された。
この『想力分子』は、当たり前だが目に見えない。分子が目に見えることはないし、そもそも分子自体原子の集まりである。
『想力分子』――想像した力が分子となって現れる――それが『想力分子』。
『想力分子』は人の周りに常にくっついている。自分には自分のがあり、他人には他人の『想力分子』がある。つまり、人それぞれで『想力分子』が違うということだ。その為、優等生と劣等生というものが生まれる。
『想力分子』はそのくっついている者が作りたいと思ったものに変換される。
今ここに剣を出現させたい――と思って『想力分子』に命令すると、目の前に『想力分子』が剣となって出現する。
『想力分子』に有機物無機物、液体気体固体などといった種類は存在しない。
それならば家だろうがなんだろうができるのではないだろうか?と思うだろうが、実際それは不可能に近い。作ることならばできるだろうが、それはあくまで一時的なものであり、長時間続けることは無理だ。家というものを作るには膨大な量となる『想力分子』が必要となる。そんな量を常に操るのは、心身共に持たない。そこまで人間は『想力分子』を保有していない。
今まで魔法とか超能力とかいうのは『想力分子』の操作である、とまた一つ歴史が増えた。
この『想力分子』を操る者を《剣魔士》という。
今の日本の総人口は6000万人。世界人口は25億人程度。
この減少の原因は誰しもがわかる『世界対戦』によるものだ。参加していないからといって無害なわけではない。空爆も勿論だがそのまま攻めてくるのが多い。関係ないのに攻められて死ぬ。そんなことは決して許されることではない。
全国の高校生は約100万人程度しかいない。
そして、その中でも《剣魔士学校(剣魔士育成機関学校の略)》に進学する高校生は約8000人程度しかいない。《剣魔士学校》は剣魔士を育てるための学校。つまり、剣魔士についての教育が特化している。だが、今の時代、そんなものでは生きていけない。真面目に就職がしたいのなら、普通の高校に通った方が格段といい。ただプライドというものを捨てれない人は《剣魔士学校》に通うべきだろう。
「《剣魔士》になる為には相当な努力が必要です。皆さんは、あなた方はそれができますか?この『優劣決定試験』で皆さんが《優等生》か《劣等生》が決まり、区別されます。それでも努力ができますか?それでも、《劣等生》になったとしても《剣魔士》になろうと思いますか?――よく考えてここから進んでください――最初の試験は《学力》です。カードに書いてある番号と同じ番号が書いてある教室に行ってください。後30分後に一斉に始めます――」
「気持ちの確認、か……」
「……?」
蒼翔が呟いた内容は双子の女――刈星緋里には聞こえなかった。
双子は教室へと向かった。
まず最初は国語。
小中と習ってきた内容がランダムに出てくる。この時代でもペーパーテストなのは変わらない。
ここの学校の問題は簡単だ。勉強しなくても80点台は取れるぐらい。だが――
緋里はスラスラ解いているのに対し、蒼翔の指は止まっている。
別にわからないわけではない。こんな程度の問題は簡単すぎる。だが書いてはならない。
決して、絶対に。
何故か――
――遡ること昨日。
家のモニターに一本の通話がかかってきた。
今現在、携帯電話というものは無くなっている。その代わりに各家庭1個あるのがこの『情報画面』である。携帯電話が大きなモニターとなっただけではあるのだが、その膨大な情報量は携帯電話に比べて倍以上に入っている。情報というものは常に増えていくもの。だからこそ、それを収納できる場所が必要となる。昔の携帯電話ではすぐにパンクしてしまうだろう。今の時代の情報量はそんなものだ。
蒼翔はモニターに触れて『ビデオモニター』モードにする。『情報画面』は手で操作もできるし、声でも操作はできる。
『ビデオモニター』とは、通話の際相手の顔を見ることができるというモード。やはり声だけでは心配の部分もある。
画面上に出てきた顔は良く見覚えのある女の顔。
紺色の髪のショートに闇に染まったとも言えるその瞳。綺麗に整っている顔立ち。上半身しか見えないが、スリムとも呼べるその体型に豊かに膨らんだその胸。ピッチピチの服を着ているものだから余計に強調し、色気を醸し出している。
――この女は《剣魔士特別自衛隊》隊長――壬刀遼光である。
そして蒼翔もまた《剣魔士特別自衛隊》の隊員であり――
――世界最強の男、刀塚玄翔である。
《剣魔士特別自衛隊》。国が作った日本が誇る精鋭が集まった自衛隊――そして日本が隠したい剣魔士がいる自衛隊。国しか知らない秘匿の存在。国からの指示により動く最強の部隊。そして、日本こよなく愛する部隊。
《剣魔士特別自衛隊》は基本的には国からの指示がない限り動かない。だが、目の前で起こったことや起こりそうなことが、日本に影響するものならば各自の判断でそれを殲滅することが許されている。日本の番犬とでも言えばいいだろう。
そして蒼翔は言われた。
「刈星蒼翔に命ずる――《劣等生剣魔士育成機関学校『第1部』》に入りなさい」
つまり、劣等生になれと。
こんなもの受けられるはずがない。だが――
「これは国からの命令なの。あなたに拒否権はないのよ」
「――わかりました」
断る理由などない。
国からの命令ならば仕方がない。劣等生になってやる。
しかし、どうやって劣等生になろうか迷っていた。
そして結論を出す――《学力》テストで全教科0点を取ればいいのじゃないかと。
だからこうして何も書かず問題を見ているだけなのだ。
だが、このままでは先生にも怒られてしまう。
そこで蒼翔は考えた――わざと間違えればいい、と。
その考えが、《剣魔士育成機関学校》歴史上前代未聞を引き起こす。
国語――
――問題。
『生きる』『明日』などの数々の詩を書いてきた作詩者は誰か。
――答え。
谷川俊太郎。
――蒼翔の場合。
谷河野隼乃介。
――問題。
次のア~エの中で動詞を選べ。
ア・生きる
イ・美しい
ウ・剣魔士
エ・あの
――答え。
ア。
――蒼翔の場合。
あの剣魔士の生き方は美しい。
社会――
――問題。
第一次世界大戦で敗北した、ドイツ・オーストリア・イタリアを何というか。
――答え。
三国同盟。
――蒼翔の場合。
負け組。
――問題。
最澄が開祖である宗教を何というか。
――答え。
天台宗。
――蒼翔の場合。
ぼくのかんがえたさいちょうのしゅうきょう。
蒼翔はのちに呼び出しを喰らい、こっぴどく怒られた。何故だろう。
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次は《剣術》の試験だ。
ここは本気で行かせてもらう。
《剣術》のテストは、小さな部屋に1人入れられ、あらゆる方向から飛んでくる光の球を剣で斬っていくというもの。剣は学校指定の物で貸してくれる。
蒼翔は1人剣を構えて立っていた。
スタートの合図と共にあらゆる方向から光の球が飛んでくる。
それん1つ1つ確実に斬っていく――
――蒼翔は学年1の《剣術》の成績を修めた。
次は《『想力分子』の操作》。『想力分子』を使って様々な事をしてくのがこのテスト。
物を作ったり、魔法陣を作って魔法を撃ったり。
――蒼翔は学年1の《『想力分子』の操作》の成績を修めた。
そして最後は《冷静な判断力》。受験者に突然の出来事を起こさせてどう反応するかのテストだ。人によって起こることは違う。蒼翔の場合――
「刈星蒼翔君かね。君には死んでもらうよ――口封じのためにね――」
面接の途中、そんなことを言われた。先程、この面接官の髪の毛が落ちてきたのだ。そう、つまり『カツラ』だ。それを見てしまった蒼翔は『死』の宣告を言われた。
蒼翔はわかっている。これが《冷静な判断力》を見るテストだということぐらい。だが――
あのテストだけでは《劣等生》になれるか不安である。だから――
「い、嫌です!自分はこんなことで死ぬ――グワッ!」
急に数人の面接官に体を押さえつけられる。
――こんな緩いの簡単に抜けれるが。
「こ、こらっ!離せ!聞こえないのか!?」
「クックックッ……墓場で待っていろ。あと100年したらみんなそっちに行くからよ」
カツラの面接官が剣を振りかざす。
――本当に当てるわけがないと、わかっているのだが。
「うわぁぁぁぁぁ!助けてぇぇぇぇ!ママァァァァァァ!」
《剣術》と《『想力分子』の操作》が学年1位。
《学力》と《冷静な判断力》が学年最下位。
異常な成績を残して、蒼翔は無事《劣等生》になれたのである。
(――死にたい)
これ書きたかったんです。本編で。