第2話
その部屋に入っただけで何か懐かしさを感じられた。
なぜなのかわからない。どうしてなのか。それは今でも疑問に思っていることだ。その疑問の答えはどこにあるのか?否、答えはあるはずなのだ。明かりがなくともその部屋を歩き回ることができるほど慣れていたのだから…。俺の中のどこかにあるのだ。だが、それは俺にとっては未知の境界だ。そう、今現在の記憶の未知の境界…。思い出すことのできぬ記憶がそこに埋まっている。己が自由に取り出すことのできぬものがそこにある。
だが、現在、今、その記憶が必要だとは…、その答えが必要だとは思わない。否、なくてもいい。今生きるのにその記憶はいらない。だが、知りたいと思うのも事実だ。だが、知ってどうする?知ったからといってどうなるのか予想もつかないのに…。
だからその欲望は封印する。封印してそんなことなど思っていないように振舞う。
それが俺だから。それが今の俺自身だ。
外を見るためだけだろうか、窓辺に向かってそのソファはおかれていた。
そのソファに深くもたれかかり、瞳を閉じているのは、なんと表現したらいいのだろうか。
琥珀色の腰下まである長い髪。しかもその琥珀色の髪は光に照らされ茶色の幕はかかるものの後ろを見通せそうなほどだ。
太陽がパジャマ脱いで、顔を照らしたからだろうか、目が開かれた。
その黒い瞳を瞬かせると、深く座り込んだソファから立ち上がった。
立ち上がるとその姿はいっそう綺麗に、……神々しく見えた。どこかのモデルだろうかと思わせるほど整っている長い手足。顔にかかってしまっている髪をかきあげる姿さえも様になっているのはどういうことか。しかも現れたのはどこにも幼さを残さない完璧な顔だ。黒い瞳も鼻も唇も何もかも人形のように整い、そう理想の人形がそこに立っているかのようだ。だが、人形ではない。そう、人形のように思わせながらもどこか、……そう瞳だ。人形の瞳ではないのだ。何か強い瞳は人形には似合わない。守るものがある、やり遂げなければならないことがあると思わせる。そんな彼がそこに立っていた。
その部屋は暖かかった。暖かな雰囲気に包まれる場所だった。この部屋がいいと思った。だからその部屋を選んだ。
光がベランダから差し込んでくる。その光がその部屋のベッドで寝ていたものを目覚めさせた。
目覚めたばかりの目はトロンとしていてどこを見ているのかわからない。幼さを残す顔はどこかかわいらしい。染めたことのないような黒髪はストレートで上半身を覆い隠す。床に足を下ろした時、ふいにベランダから入って来た風が髪を揺らし体をあらわにさせた。女の子が羨ましいと思うであろう細く長い手足に引き締まった腰、ふくよかな胸。誰もが振り返りそうな体をしていながら子供っぽい顔がアンバランスさを生み出していた。




