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金の色のりゅう

作者: my92

 あるところにりゅうがいました。

 そのりゅうは金色に輝くウロコに覆われていました。

 そしてその金色のウロコは、なんでも願いをかなえることができました。

 ある日のこと、金の色のりゅうは自由気ままに空をとんでいました。

 するとりゅうの目に道端で泣きながらうずくまっている男の子の姿が飛び込んできました。

「どうしたの?」

 とりゅうは聞きました。

「おなかが減ってくるしいの」

 と男の子は言いました。

「おやすいごようさ」

 とりゅうは自分のからだから一枚の金色のウロコを引きちぎりました。

 引きちぎられたウロコは急に輝きをまし、目の前にたくさんのおかしやごちそうが現れました。

「ありがとう」

 男の子は笑顔いっぱいに、とてもおいしそうにおかしやごちそうを食べました。

 りゅうはその笑顔をみるととてもしあわせな気持ちになりました。

 りゅうはそれからもたくさんの人の笑顔がみたくて世界を飛び回りました。

 病気で困っている人がいたら飛んでいき、自分のウロコを使って治してあげました。

 貧しくて困っている人がいたら飛んでいき、自分のウロコを使ってお金をだしてあげました。

 こどもが出来なくて困っている人がいたら飛んでいき、自分のウロコを使ってこどもの出来やすいからだにしてあげました。

 りゅうのそのような行いでたくさんの人がしあわせになりました。

 そしてなんでも願いがかなう金色のウロコをもったりゅうは人間たちの間で大きなうわさになりました。

 えらい王様やお金持ちはそのうわさを聞いてどうしてもそのりゅうが欲しくなりました。

 懸賞金をかけてまでも欲しくなりました。人間たちは必死になって金の色のりゅうをつかまえようとしました。

 その日からりゅうはにげかくれするようになりました。

 外にでれば怖い顔をした人間たちが自分を追いかけてくるからです。

(自分はなにもわるいことをしてないのに、なんでにげないといけないのだろう?)

 りゅうは不思議におもいました。


 にげかくれする生活は、りゅうにとってとてもつらいものでした。

 大好きな空のお散歩ができないことや、なによりも人間の笑顔がみられないことはりゅうにとってとてもつらかったのです。

 その日りゅうはどうくつにかくれていました。

 どうくつは暗く深く、外にでなければ絶対にみつかることはありませんでした。

「えーんえーん」

 子どもの泣く声が聞こえました。

 りゅうは何も考えずに声の方へ向かいました。

 声はどうくつの外からでした。

 女の子が外で泣いていました。

 りゅうは女の子にかけよると、

「どうしたの?」

 と聞きました。

「ここでころんじゃって足がいたいの」

 女の子が言いました。

「おやすいごようさ」

 りゅうは自分のからだからウロコを引きちぎりました。

 ですがその瞬間りゅうのからだに網がかかりました。

「引っかかったぞ!ざまーみやがれ」

「懸賞金は俺のもんだ!」

「手間取らせやがって」

 男たちの声が聞こえました。

 りゅうは網を必死でふりほどこうとしましたがなかなか抜け出せません。

 もがいているうちに今度はクサリでしっかりと縛られ、まったく動けなくなりました。

 そして男たちにどこかへ連れて行かれました。

 連れて行かれるとき、りゅうは、

「ごめんなさい」

 という言葉を聞いた気がしました。


 男たちにつれられてりゅうは大きなお城へやってきました。

 そこで王様の前に連れてこられました。

「余は財がほしい。とびきりの金銀財宝がほしい」

 そう言うと王様は無理やりにりゅうから金色のウロコを引きちぎりました。

「いたい!いたい!」

 りゅうは泣き叫びましたが誰の耳にも入りませんでした。

 金色のウロコは辺りを照らし、王様の目の前にはとてもたくさんの金や財宝が現れました。

 王様はとてもよろこび満足しました。

 次の日からお城には長い列ができました。

 列に並んだ人間の目的はもちろん、願いをかなえてくれる金の色のりゅうでした。

 並んでいる人間の多くは、高そうな金や銀を身につけながらお金がほしいだとか、

 おかしをボリボリ食べながらやせたいとか言っているものばかりでした。

 次の日も次の日も長い列はできました。

 そのたびにりゅうはウロコを無理やり引きちぎられる痛みに耐えながら人間たちの願いをかなえ続けました。

 しかしりゅうはそれほどつらいとは考えていませんでした。

 りゅうは願いをかなえることで人間たちがしあわせになると考えていました。

 だから以前のように人間たちの笑顔をみて自分もしあわせになれると信じていました。

 でもなぜだかりゅうは以前のように願いをかなえてしあわせの気持ちがいっぱいになることはありませんでした。

 りゅうは不思議におもいました。

 また次の日も次の日も長い列ができました。そして何日もすぎて、とうとうりゅうのからだからはウロコがなくなってしまいました。

 ウロコがなくなったりゅうの肌はいたそうな赤色がさらけ出されていました。

 人間たちはみにくいだの願いをかなえられなければ価値がないだのと言ってりゅうをお城から追い出しました。


 お城を追い出されたりゅうは途方にくれていました。

 ウロコのない肌に冷たい風は身にしみました。空もうまく飛べなくなっていました。食べるものもままなりませんでした。

 人間たちに近づこうとするとみにくいと言って相手にされませんでした。

 ときには石を投げられることもありました。

 しかし、りゅうにとっていちばんつらかったのはウロコがなくなって願いをかなえることができなくなったことでした。

 りゅうはもっと人間の笑顔がみたかったのです。

 

 りゅうは途方にくれていました。

 それどころか生きる気力もなくなっていました。

 そんなある日のことでした。

 ひとりの女の子がりゅうの目の前にあらわれました。

「こんな姿になっちゃて…あのときは本当にごめんなさい」

 女の子はりゅうにあやまりました。

 りゅうはなんであやまられているのかわかりませんでした。

「ころんで足がいたいだなんて嘘だったの。おじさんがそう言えって…。そうしたらお金をくれるっていったの」

 女の子はさらにあやまり続けました。

「これ、あなたのウロコ。使わないでとっておいたの」

 女の子は金のウロコをりゅうに差し出しました。

「これはぼくのウロコじゃないか!ありがとう」

 りゅうはこれでみんなの願いがかなえられると思って心の底から喜びました。

「君なにか願いはないの?お礼になんでもかなえてあげるよ」

「何を言っているの?これが最後の一枚なのよ」

 りゅうのからだにはもうウロコは一枚もありませんでした。

 だからこれが願いをかなえられる最後の一枚なのでした。

「あなたに願いはないの?」

「ぼく?ぼくはないよ」

 りゅうはあっさり言いました。

「こんなにひどいめにあって、それでもないと言うの?」

「ないよ」

 りゅうはあっさり言いました。

「君に願いがないなら僕はもう行くよ」

 りゅうははやく人の願いをかなえたかったのです。

 りゅうは後ろを向くとよわよわしい足取りでその場を去ろうとしました。

「待って」

 女の子は向こうへ行こうとするりゅうの前に立ちました。

「なんだよ 邪魔だよ 向こういってよ」

「あなたはそれでいいの?」

「なにが?」

「そうやって願いをかなえて、あんな卑しい人間たちの願いを聞いて楽しい?」

 なんでこんな女の子にここまで言われるかりゅうにはわかりませんでした。 でもりゅうはこの女の子の話を聞かないといけないきがしました。

「楽しいよ。人間の笑顔みるとぼくはとてもしあわせになるんだ」

「本当に?」

 そう言われてりゅうはどきっとしました。

「お城での生活は本当にしあわせだったの?」

 りゅうはお城での生活を思い出しました。

 無理やり引きちぎられたウロコ。

 とても痛かった。

 かなえる願いと言えば、金、金、金。

 そこには純粋な笑顔はなくて、いやしい笑いにあふれていました。

(いたい、いたい、いたい。カラダもココロもいたい。どうしてこうもぼくはつらいんだろう)

 ふと、りゅうは自分が泣いていることに気づきました。

 涙が赤い肌にしみました。

「あはは。なんでぼく泣いてるんだろう?

 ぼくは正しいことをしてきたのに、

 ただみんなの笑顔がみたかっただけなのに、

 ただそれだけがぼくのしあわせだったのに」

 ボロボロとりゅうは泣き続けました。

「あなたはもう十分に人間の願いを聞いたわ。だからもう願いをかなえる必要はない」

(それでもぼくは、願いがかなえられなくても)

「それでもぼくはしあわせになりたいんだ」


 辺り一面が輝きはじめました。

 その輝きはりゅうが何千、何億回と見てきた輝きよりも、ひときわ輝いていました。

 その光が辺りに満ちると、りゅうのからだを照らし、光はりゅうのからだをつつみこみました。



 それから何年かたちました。

 願いがかなう金色のウロコをもったりゅうのうわさはすっかりなくなっていました。

 ある日、ある町に若夫婦が引っ越してきました。

 男の方はかがやくほどきれいな金髪をしていました。

 趣味は散歩らしいです。気さくな青年でした。

 彼のまわりではいつも笑いがとだえませんでした。

 彼がいつもの日課である散歩をしていると道端で泣きながらうずくまっている男の子がいました。

「どうしたの?」

 と青年は聞きました。

「おなかが減ってくるしいの」

 と男の子は言いました。

「そうかぁ。残念だけど今、食べ物もってないんだよね。ぼくの家にくればなんかあるかも」

 そういって青年は男の子をおんぶしました。

「あーあ、おなかすいたなぁ。おじさんが魔法使いで、

 ぼくがおなかいっぱいになりたいって願えば、目の前におかしやごちそうがでてくればいいのに」

 男の子が言いました。

「だったらいいのにね。でもあいにくぼくにそんな力はないよ」

 青年が言いました。


「もし君が魔法使いだったらどうする?君のように困っている人がいた場合」

 青年が聞きました。

「助けるとおもう」

「じゃあ、遠く東に病気で困っている人がいたらどうする?」

「助けるとおもう」

「じゃあ、遠く西に貧しくて困っている人がいたら?」

「助けるとおもう」

「でも東から西へ行くってたいへんだよね。

 なんでそこまで人に尽くせるのかな?」

「自分が魔法使いだから。人を助けられる力があるから」

「それって楽しい?」

「うーん、それで助けた人がしあわせになるなら、

 それでありがとうっていわれたら自分もいい気持ちになれるとおもう」


「おじさんは魔法使いだったらどうするの?」

 男の子が聞きました。

「なんにもしないんじゃないかな」

「なんにも?人助けにも」

「うん ぼくはそこまで人には尽くせない。

 東へ西へわざわざ行く気もなれない。

 つらいものはつらいって言いたいよ。」

「それってつめたくない?」

「ううん。遠くまでいかなくても近くの小さなこと。

 気づいたらでいいんだ。わざわざ困っている人を探さないでいい。

 ありがとうっていわれるために人を助けるんじゃなくて、 

 人をたすけたからありがとうっていわれるんだよ」

 

 そうこう話しているうちに青年の家の前に着きました。

 なんだかとてもおいしそうなにおいがしました。

「お、着いた着いた。パイでも焼いてるのかな。

 さぁ、中に入ってたくさん食べな。でもうちの嫁さんは気が強くて怖いからきをつけてね」

 青年は笑って言いました。

「ありがとう。本当にたすかったよ」

 男の子は笑顔いっぱいに言いました。

 それをみて青年はしあわせな気持ちでいっぱいになりました。


               

               END



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― 新着の感想 ―
[一言] 大変楽しく拝見致しました。絵本になりそうな話しで是非小さい子どもに聞かせてあげたいとおもいました。端的ではありますが感想とさせて頂きます。ありがとうございました。
[一言] 例えば、 「りゅうは願いをかなえることで人間たちがしあわせになると考えていました。  だから以前のように人間たちの笑顔をみて自分もしあわせになれると信じていました。  でもなぜだかりゅうは以…
[一言] 「幸福の王子」のような心の優しい竜ですね。最後はよく分からなかったのですが、竜が人間の青年になったのでしょうか? 竜の願いが叶えられたのなら良かったですね。同じような文章が続いている箇所が多…
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