骸骨勇者と幽霊魔女
その骸骨は、くしゃみをした。
「……へっくしょい」
カタカタと自分の肋骨を押さえながら、骸骨の勇者は森の中で立ち止まる。
「いつも思ってたけど…くしゃみってする必要あるの? あなた肺ないじゃない」
ふわり、と白い霧のような身体を揺らしながら、幽霊の魔女が呆れた声を出した。
「気分だよ、気分。こんなんになっても人間だ」
「骨だけなのに?」
「うるさいな」
勇者は腰の剣を鳴らして歩き出す。カタ、カタ、と乾いた音が森に響く。
彼は世界を救った英雄だった。
ーーー正しくは、「元」英雄。
魔王を倒した代償に、肉体を失ったのだ。
魔王が身に付けていた、宝珠から発せられた光が彼を包み、光が晴れた後に残ったのは白い骨だけだった。
驚きはしたものの、一度は王国に帰還した。
魔王討伐の祝杯にも参加した。
骸骨になっても、いつもみたいに接してくれるなんてーーー
当時、彼はそんな事を思っていた。
「ありがとう‼︎勇者様‼︎」
「よくやった…勇者よ…」
盛大に、盛大に祝われーーーそして、彼をそっと国の外へ追い出した。
笑顔のままで。
「……後悔してる?」
魔女が、珍しく静かな声で聞く。
彼女もまた、かつては『災厄の魔女』と呼ばれ、討伐された存在だった。
今はなぜか成仏できず、彼の周りを漂っている。
本人曰く、幽霊というよりゴーストに近い存在らしい。
「してないさ」
勇者は即答する。
「世界は救われた。めでたしめでたしだろ?」
「あなたは?」
「俺もまあ……骨だけど元気だし?」
両腕をぶんぶん振ると、右手がぽろっと落ちた。
「元気とは」
「今のはノーカン」
魔女は吹き出した。幽霊なのに、ちゃんと笑うのだ。
森を抜けると、小さな村が見えてくる。
最近、魔物が出るらしい。
「仕事だぞ、相棒」
「相棒って言った」
「言ってない」
「言ったわよ」
「……言ったかも」
勇者は剣を抜く。
魔女はその周囲に淡い光をまとわせる。
生きていない二人は、今日も生きている人々を守る。
誰からも歓迎されなくても。
名前を呼ばれなくても。
それでも。
「いくぞ、幽霊魔女」
「ええ、骸骨勇者」
――これは、世界に必要とされたけれど、
世界に居場所をもらえなかった二人の、
ちょっと可笑しくて、少しだけ寂しい冒険譚。




