1 強制リスタート
西暦2025年1月1日。
絶望のどん底で迎えたはずの元旦。俺、三上 悟の意識は、冷たい床の上で無理やり再起動した。全身を駆け巡る激しい悪寒。目を開くと、そこは2020年1月1日午前0時01分のアパートの部屋。
「クソッ……またかよ!」
俺は知っている。これから始まる地獄の五年を。
株で儲けようとしては暴落。仮想通貨に手を出すも規制。焦燥と恐怖で判断を誤り続け、結局、デッドラインである2024年の大晦日までに一億円を用意できなかった。そして、待っていたのは死ではなく、この強制的な**「死に戻り(リスタート)」**だ。
頭の中に、機械的な音声が響く。
『ミッション失敗。ミッション開始時点へリセット。』
『現在の純資産:12,350円。目標金額:100,000,000円。』
『制限時間:残り1,826日。』
このままでは、五年間稼ぎに稼いで、また失敗し、またこの絶望のスタート地点に引き戻される。無限ループだ。
「二度と繰り返すか、こんな悪夢!」
俺はベッドから飛び降り、スマホを掴んだ。この未来の記憶こそが、俺が唯一手にしたチート能力だ。
「上等だ。次は絶対に逃さない」
第一話:未来知識チートの初動
ターゲットは明白だ。まだ誰も気づいていない、いや、気づいていても危機感が薄いあの商品。
「――マスクとアルコールだ」
2020年1月。世間が正月気分に浮かれる中、俺は冷静に判断を下した。約一ヶ月後には、世界中がパンデミックの恐怖に怯え、これらの衛生用品は一瞬で店頭から姿を消す。市場価格は10倍、いや20倍以上に跳ね上がる。
手持ちの資金はわずか12,350円。これをすべて初期投資に回す。
すぐにECサイトを開き、在庫が豊富で、まだ定価で売られている大容量の箱入りマスクと、携帯用アルコールジェルを注文した。すべて同じ業者に絞り、送料を抑える。
残金:210円。
「よし、これで種は蒔いた」
しかし、問題が残る。家賃と生活費だ。このままでは種が芽を出す前に餓死するか、契約違反で追い出されてしまう。
一度目の人生で愛用していた、壁際の高性能ゲーミングPCに視線を送る。二度とゲームなんてやる暇はない。
「ごめんな、相棒。お前にはより大きな戦いに貢献してもらう」
フリマアプリに、即決価格で出品。設定金額は、十万円と少し。この十万円が、俺の最初の生命線となる。
そして、俺は部屋の中を歩き回りながら、未来の記憶を整理する。
2020年2月上旬:マスクが高騰するタイミング。ここが第一波の売り時。
2020年春:株価暴落、そして巣ごもり関連銘柄の爆発的な成長。
2021年:特定の仮想通貨の急騰と、NFT市場の誕生。
「まず第一目標は、この転売で100万円だ。それがなければ、次の波に乗るための資金すら作れない」
未来を知る俺にとって、この最初の数週間は、もはや負けが許されない詰将棋だ。
玄関のドアを開け、コンビニに向かう。210円で買えるもの。水と、カロリーバーを一本。
凍えるような真冬の夜空を見上げ、俺は固く誓った。
「見てろ、過去の俺。このチートで、必ず運命を変えてやる」
目標金額100,000,000円
現在資産12,350円(初期投資後:210円)
残りの時間1,826日
稼ぐべき金額99,987,650円
※まいにちとうこうします




