エピローグ:血の誓い、そして新たなる夜明け
暗闇に包まれた、古びた屋敷の奥深く。サイラスは、硬い石の床に横たわっていた。全身を襲う激痛は、ジェノサイド家の襲撃によって受けた傷が、どれほど深かったかを物語っている。
命を助けられたはずなのに、意識は霞み、死の淵を彷徨っているようだった。
そのサイラスの傍らに、メル・デオルワインは静かに立っていた。彼の顔には、幾世紀もの時が刻まれたような深い皺と、過去の苦痛を物語る影が落ちている。デオルワインは、サイラスの瀕死の姿を見つめ、静かに語り始めた。
「スコープ家の血よ……お前はまだ、運命に抗うことができる」
デオルワインの言葉は、まるで遠い記憶の呼び声のように、サイラスの意識の奥底に響いた。彼は、ジェノサイド家によって滅ぼされたシルバニアの最後の生き残り。そして、ジェノサイド家がその不死身の力を手に入れた、忌まわしい過去の生き証人でもあった。
「私の血には、ジェノサイドの呪いがかかっている。だが、同時に、奴らを打ち破るための術も隠されているのだ。お前がもし、その力を受け入れるならば……」
デオルワインは、自身の腕に鋭いナイフを当て、鮮血を滴らせる。その血は、サイラスの唇へと導かれ、彼の喉を熱く流れていく。本能的な拒絶と、抗いがたい渇望が、サイラスの全身を駆け巡った。それは、単なる血液ではなかった。シルバニアの古き血と、ジェノサイドの呪いが混じり合った、禁断の秘薬。
血が体内に満ちるにつれて、サイラスの傷は急速に癒え始めた。しかし、同時に、彼の中にはこれまで感じたことのない、悍ましい飢えと、抑えきれない暴力的な衝動が芽生える。それは、不死身の暗殺者として生きてきた彼の内に秘められた、もう一つの本能を目覚めさせるものだった。
やがて、サイラスはゆっくりと目を開いた。彼の瞳は、以前よりも深く、そして冷たい輝きを宿している。全身に力が漲り、死体が積み上がった大部屋で、かつて感じたことのない高揚感が彼を包み込んだ。
デオルワインは、そんなサイラスを見つめ、静かに言った。
「これで、お前は我らシルバニアの最後の希望となった。不死身の呪いを解き放ち、ジェノサイドを滅ぼすことができるのは、お前だけだ。だが、この力は、諸刃の剣。制御を誤れば、お前自身が怪物となるだろう」
サイラスは、自身の体内に脈打つ異質な力を感じながら、深く息を吐き出した。唇に残る血の味と、新たに与えられた不死の力。それは、彼に家族を奪ったジェノサイド家への、決して消えることのない復讐心を燃え上がらせる。
「怪物になるのも悪くない……。この力で、奴らを一人残らず、地獄へ叩き込んでやる」
彼の視線の先には、漆黒の森の奥にそびえ立つ、ジェノサイドの城が見えるかのようだった。
夜明けはまだ遠い。だが、サイラスの心には、血の誓いと復讐の炎が、燃え盛っていた。そして、それは新たな戦いの始まりを告げる