ep.8 エピローグ
玄関のドアを開けると、ふわりと家の匂いが鼻先をくすぐった。
靴を脱ぎながら、彼は、「ただいま」と声をかける。
もちろん「おかえり」の声は無い。
しぃんと静まり返ったままの家。
家族がまだ帰っていない・・・わけではない。
「おかえり」の言葉など、ここ何年もこの家で聞いたことが無いのだから・・・
【 第8話 the game Second 】
【②佐々木 仁朗】は、重たい足取りで階段を上がり、自室のドアを開けた。
そうして、ドサリと鞄を床に投げ出すと、そのままベッドに倒れ込む。
汗のしみこんだ制服が肌に張り付き、不快感と疲労が全身を覆う。
自分の体から錆びた鉄の匂い・・・血の匂いがするような気がした。
頭の中では、今日の人狼ゲームの光景が何度も再生されている。
赤い目を光らせて獲物にかぶりつく【⑨大島 久美】の牙。
喉から血を噴き出して倒れる親友【⑩才市世野 義正】の姿。
人狼であった【⑨大島 久美】の隔離に成功した時の【⑥斎藤 甚六】のガマガエルのような笑い。
そして、被害者に噛みついた瞬間、真っ赤に染まった自分の制服。
どれくらい時間がたったであろう。
のそのそと体を起こした、【②佐々木 仁朗】は、食事の前にシャワーを浴びることにした。
バスルームに向かいながら、ふと鏡に映った自分の顔を見て口を大きく開けてみる。
「さすがに牙が生えたままってわけでもないか。」
鏡の中の自分は、いつもより少しだけ大人びて見えた。
そして、少しこけた頬には、どこか誇らしげな疲労の色。
余韻をかみしめながら、リビングの横を通り抜けようとした時、彼は、いつもと違う家の中の様子に初めて気づいた。
いつもは、未明に帰ってくる父親が、こんな時間に帰宅していたのだ。
静寂のリビング。
父親と母親、兄たちが、無言でテーブルを囲む。
そして、その机の真ん中に置かれているのは、中央に数枚のトランプ風のカード・・・
「おいっ、それって・・・」
思わず【②佐々木 仁朗】が、リビングに足を踏み入れた瞬間っ・・・
ゲームのようなメッセージが、リビングの西窓に浮かび上がった。
【ある日、リビングで人狼ゲームをすることになった仲の悪い10人の家族。それは、「ただの遊び」のはずだった。だが、次第にリビングは異様な空気を帯び始めた。誰が嘘をついているのか?本当の「人狼」は誰なのか?】
・・・机の上に置かれていたトランプのようなカードが、まばゆく光り輝く。
それは、人狼ゲームの役職が書かれた札・・・
頭の中にゲームマスターの声が響く。
『あなたの役職は、人狼です。残り9人の中には、あなたの仲間の人狼が1名。同じく仲間の狂人が1名います。対する村人陣営には、占い師1名、騎士1名、村人5名が所属しています。村人と人狼の数が同数になった場合、人狼陣営の勝利です。狂人は、人狼陣営に属しますが、村人としてカウントされます。それでは、健闘を期待いたします。』
そう・・・それは、【②佐々木 仁朗】の人狼ゲーム第2戦が始まった瞬間であった。