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ep.7 誰を噛むか?それが問題だ 4日目 5日目

噛む位置が問題だ。


普通に考えれば、騎士の【⑤五木 真央】を噛むので良い。


ただ、明日の隔離する人物を考えた時、それで本当に良いのか?


【⑤五木 真央】を残しておけば、狂人は、問題なく騎士の【⑤五木 真央】に投票するだろう。


しかし、【⑤五木 真央】を噛んだならば、狂人は、誰に投票する?


狂人が、人狼である【②佐々木 仁朗】のことを村人と思い込んでしまっていることはないか?


仮に、狂人が【②佐々木 仁朗】に投票するようなことがあれば、村人陣営に逆転される可能性があるのだ。


いやしかし、騎士以外を噛んだ時、狂人噛みが発生するかもしれない。


その場合は、3対1となり、村人の勝利の目・・・その可能性が出来てしまう。


いや、仮に狂人を噛まなくても、グッドジョブが起こってしまえば、騎士に守られた人物が人狼でないことがバレる上に、残り人数が5人になるため、3対2で、村人有利の展開に切り替わる。


思い悩んだ【②佐々木 仁朗】は、あることを思い出した。


もうすでに、噛む人物に悩まなくてよくなる行動を、自分自身がとっていたことに・・・


それが分かった瞬間、彼はその夜の犠牲者の首筋にその牙を突き立てた。



 【 第7話 俺が、人狼だ 】



教室を覆っていた闇の衣がはがされ、窓から光が差し込む。


『夜が明け、朝になりました。村人たちは、話し合いを始めてください』


頭の中に響くゲームマスターの声。


そして、4日目が始まった。


教室の真ん中には、【⑤五木 真央】の死体。


そう、【②佐々木 仁朗】は、騎士を噛んで退場させることにしたのだ。


【⑤五木 真央】の死体を隔離カプセルに放り込みながら、【②佐々木 仁朗】は、言う。


「これって、意味あるの?」


「うーん。人狼陣営がミスしたら、もしかしたら・・・村人陣営の勝利も無くはないから・・・カプセルに入れて置けば、生き返る・・・」


【③山本 三伸】は、そう言いながら、死体を隔離カプセルに放り込む。


当然だが、チャイムの後のモニター画面は、【⑤五木 真央】は【騎士】、【⑦川相 七瀬】は【村人】であった。


■教室に残っている人物

【①松田 一花】

【②佐々木 仁朗】村人とみなされている

【③山本 三伸】 占い結果で、人狼ではない

【④正岡 四季】


教室の黒板には、議論の残り時間を刻む数字。


しかし、誰も言葉を発しない。


その沈黙を破ったのは、【①松田 一花】であった。


「私が、人狼よ。狂人は、名乗り出てっ。」


【②佐々木 仁朗】は、クスリと笑った。


最後の足搔きとばかりに【①松田 一花】が、自分を人狼だと偽って狂人を騙そうとしていることが分かったからだ。


「【①松田 一花】さん、それは、無駄な行動だよ。俺が、人狼だから。狂人は、手を挙げてくれ。」


一歩前に足を踏み出した【②佐々木 仁朗】は、冷たく言い放つ。


「私よ。」


名乗り出たのは、【④正岡 四季】。


「あぁ、そうだろうね。1日目に【⑤五木 真央】の役職持ちを透かそうとしたり、昨日は、【①松田 一花】と【⑦川相 七瀬】の両方を攻撃しながら、人狼っぽくない方を確認して投票を誘導した。狂人として完璧な仕事だったと思う。」


【②佐々木 仁朗】は、【④正岡 四季】の顔を見ながら、にっこりと笑った。


「いや、違う。僕が狂人だ。」


そこに、【③山本 三伸】が言い返してきた。


「無理だよ。お前の行動は、村人そのものだ。それに、身分を偽っても意味がないんだよ。自分に投票できることが確認できてるから。」


そう、これこそが、昨夜【②佐々木 仁朗】が騎士の【⑤五木 真央】を嚙み殺した理由。


騎士を殺しても、狂人が、自分に投票できるシステムならば、狂人が間違って人狼に投票してしまうリスクは、無い。


2日目の投票で【②佐々木 仁朗】は、自分に投票しており、それが可能であることが確認できていたのである。


「ってことで、【③山本 三伸】君。俺は、君に投票する。【④正岡 四季】さんも【③山本 三伸】君に投票して。そして、【③山本 三伸】君、君が狂人なら自分に投票してくれるかな?狂人なら、それが出来るだろ?」


そうなのだ。


【③山本 三伸】が、自分に投票すれば、【②佐々木 仁朗】の票を合わせて2票。


仮に、【④正岡 四季】が偽物であっても、投票は、同数以上に持ち込める。


逆に【③山本 三伸】が、偽物であっても、【④正岡 四季】の票があるため、投票で人狼陣営が負けることはあり得ないのだ。


「くっ・・もう、すでに詰んでたってことか・・・」


うなだれた【③山本 三伸】が、つぶやいた。


「そもそも、俺を投票から外す決定をした2日目に勝負はついてるんだよ。もっと言えば、初日に【⑧岡崎 慎八】が7分0秒のルールを破った時に、ほぼ人狼の勝ちが決まったんだ。ルールっていうのは、ちゃんと守らないと問題が起こるから作られてるんだよ。ルール守れよ、占い師さんっ。」


せせら笑いながら、【②佐々木 仁朗】は、後ろの隔離カプセルの【⑧岡崎 慎八】に向かって、聞こえるはずの無い言葉を投げつける。


「でも、よく【村人】をカミングアウトして、自分を隔離してくれなんて言えたよね?一歩間違ったら隔離されてゲーム終わっちゃうよ。」


【④正岡 四季】が、たずねてきた。


「ほぼねぇよ。命がかかっている以上、まず遅れて占い師が出て来るからっ。今回は、【⑨大島 久美】が黒だって占い結果だったけれども、他の人間に白っていう結果が出ていた場合でも、あの行動をすることで俺は、村側だとみんなに見られるのは、間違いない。あの場面で【村人】を宣言することが、占い師に自分が占われていない限り、勝利確定のパターンなんだよ。」


「あぁ、なるほど。初見だと、絶対、対応できないか・・・頭いいね。」


泣き崩れる【①松田 一花】と、うなだれたまま顔をあげない【③山本 三伸】。


頭の中にゲームマスターの声が響いた。


『投票まで、10秒です。』


黒板は、残り時間をカウントダウンする。


『それでは、投票の時間です。人狼陣営だと思う人物の番号をタッチしてください。』


投票は、【②佐々木 仁朗】に2票。


【③山本 三伸】に2票。


予定調和の隔離者無しであった。


その夜、噛まれたのは、【①松田 一花】。


次の日、隔離されたのは、【③山本 三伸】。


隔離カプセルが【③山本 三伸】を吸い込んだ後も、恐ろしい夜は、もうやってこない。


『人狼と村人の数が同数になりました。人狼陣営の勝利です。』


ゲームマスターの声が機械的に響く中、白い煙がモワモワと沸き、教室後ろの隔離カプセルがその姿を隠す。


そうして、煙が消えた時、そこには、ひとりの人物の人影・・・


「おかえり。【⑨大島 久美】さんっ。」


狂人役だった【④正岡 四季】が、【⑨大島 久美】に飛びついた。


「もぉ、痛いって。でも、クラスの人数が3人になっちゃったから、このおかしな人狼ゲームは、終了ね。さすがに3人じゃ、人狼ゲームは、無理でしょ。」


「そうね。っていうか、【②佐々木 仁朗】君は、ズルい。みんな、何回も人狼ゲームで対戦して生き残って来たのに、ひとりだけ、1回勝っただけで、勝ち逃げするんだもの。」


「んー。確かにちょっとズルいかもしれないけど、今まで人狼陣営は、勝ったことが無かったんだろ?今回、勝てたのは、俺の初日の動きが、完ぺきだったからだ。なら、そのくらいは、許してくれてもいいんじゃないか?」


「うわぁ、身勝手ー。そういう男は、嫌われるわ。」


「あら?私は、好みよ。」


「えー。ここで告白?無いわー。絶対、吊り橋効果で好きになってるだけだって。あとで後悔するよ。」


ぺちゃくちゃと、しゃべり倒す女子2人。


それを横目に【②佐々木 仁朗】は、窓の外を見やる。


窓から差し込むは、夕日。


放課後である。


下校する生徒がちらりほらりと見える。


かばんをそぉっと持ち上げ、教室を出た彼は、2人に気づかれぬようドアを音をたてずに閉めた。


とぼとぼと帰路につく【②佐々木 仁朗】。


教室に残った【④正岡 四季】と【⑨大島 久美】の背後に、影だけが狂ったように笑うピエロと、口を開くと一瞬だけ牙が見える狼のシルエット。


そうして、【②佐々木 仁朗】の背後・・・その歩道には、鋭い爪を持つ狼の影が、長く伸びていた。

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