ep.6 バランス相対性理論と人数の単純算数 3日目
教室を覆っていた闇の衣がはがされ、窓から光が差し込む。
『夜が明け、朝になりました。村人たちは、話し合いを始めてください』
頭の中に響くゲームマスターの声。
そして、3日目が始まった。
教室の真ん中には、【⑧岡崎 慎八】の死体。
「まぁ、当然の結果だな。」
「そうねぇ・・・で、次は、私の順番ね。」
「まぁ、仕方ない。騎士なんだから噛まれるのも仕事だ。」
そう話をしながら、【⑤五木 真央】と、確定白の【③山本 三伸】が死体を隔離カプセルに放り込む。
チャイムの後のモニター画面は、もちろん【⑧岡崎 慎八】は【占い師】、【⑥斎藤 甚六】は【村人】であった。
■教室に残っている人物
【①松田 一花】
【②佐々木 仁朗】村人とみなされている
【③山本 三伸】 占い結果で、人狼ではない
【④正岡 四季】
【⑤五木 真央】 騎士
【⑦川相 七瀬】
【 第6話 手のひら返し 】
「しかし、50%外したかぁ・・・」
【③山本 三伸】が、天井を見ながらひとりつぶやく。
「でも、今日は、75%だから、当てなきゃダメね。」
【⑤五木 真央】は、3人の顔を見比べながら言う。
もちろん見比べられているのは、【①松田 一花】【④正岡 四季】【⑦川相 七瀬】の3人だ。
「ちょっと議論する前に聞きたいことがあるんだけどいい?」
【⑦川相 七瀬】が、声をあげた。
「何かしら?」
【⑤五木 真央】が答える。
「いや、昨日の投票結果を確認したんだけれど、【②佐々木 仁朗】君だけ、自分に投票しているのよ。これ何?」
「あっ、ごめん。ミスったんだ。いや・・自分の名前があるのって変だなって思って、触っちゃったら、投票になっちゃったんだ。これ、自分にも投票できるシステムなんだね・・・今回は、致命的にならなかったけど、下手に触っちゃうと村人側が負けちゃうかもしれないから、投票の時は気を付けないといけないと思う。」
「あぁ、そういえば、自分に投票することもできたな。まぁ、初めて参加するんだから、ミスは、つきものだ。仕方ないさ。」
頭を下げてあやまる【②佐々木 仁朗】を【③山本 三伸】が、フォローする。
どうやら完全に信頼を得られているようだ。
「まぁ、一応、納得しとく。【②佐々木 仁朗】君は、疑う対象じゃないから・・・」
「そうだな。今日は、【①松田 一花】【④正岡 四季】【⑦川相 七瀬】の3人から選ぶぞ。」
【③山本 三伸】が、話を進めた。
「っていうか、今日は、【①松田 一花】さんでしょ?」
【④正岡 四季】が、いきなり【①松田 一花】を攻撃し始めた。
「なんでよ?私を選ぶ根拠なんて持ってないでしょっ!」
「あるわ。バランスよ。昨日、あなたの推した【⑥斎藤 甚六】君が隔離されて、村人だった。だったら、相対的に考えると、【①松田 一花】さんを隔離するのが、一番バランスがいいと思う。」
「バランスって、それって根拠でも何でもないじゃない。そんなことで隔離するっておかしいわよ。あなたこそ、人狼じゃないのっ?」
「私、あなたが人狼だなんて言ってないわ。バランスを考えたら、あなたを隔離すべきって言っただけ。【⑥斎藤 甚六】君が村人だった以上、それを推した人が人狼か狂人って可能性が少し高いと思うから。人狼じゃなくても狂人の可能性もありえるって思ってるわ。」
「ふーん。でも、それって【①松田 一花】さんが村人だったら、明日は、【④正岡 四季】さんが、隔離されるってことになるけれど、それでいいのかな?」
【⑦川相 七瀬】が、面白そうに【④正岡 四季】にたずねた。
「えっ?なんて言ったの?【⑦川相 七瀬】さん。」
【④正岡 四季】は、獲物を見つけた狼のように、【⑦川相 七瀬】に対して聞き返した。
「なによ。だから【①松田 一花】さんの表示が村人だったら、明日は、【④正岡 四季】さんが、隔離されるってことでいいのね?って言ってるの。」
「ごめん。やっぱり【⑦川相 七瀬】さんを隔離することを推すわ。」
その答えを聞いた【④正岡 四季】は、手のひらをかえすように言った。
「何言ってるの?さっきまで【①松田 一花】さんって言っておいて、次は、私?あなた言ってることがおかしいわよ。」
「おかしくないわ。【①松田 一花】さんが村人なら、これを隔離して明日が来た場合、村側の負けがほぼ決定するんだもの。それが分からないっていうことは、【⑦川相 七瀬】さん、あなたは、人狼と狂人と村人の数を計算していない。ってことは、計算する必要がない役職ってことよ。つまり、あなたこそ、人狼だわっ。人狼は、人数を考えなくても最終的に生き残ればいいんだから。」
そう、【①松田 一花】が村人であったならば、人狼陣営の勝利なのだ。
■教室に残っている人物
【①松田 一花】
【②佐々木 仁朗】村人とみなされている
【③山本 三伸】 占い結果で、人狼ではない
【④正岡 四季】
【⑤五木 真央】 騎士
【⑦川相 七瀬】
現在残っているのは、この6人。
もし、この中から、村人が隔離され、夜に騎士が噛まれたならば、残り4人。
明日は、4人の中に、人狼が1人。狂人が1人になる。
とすると、人狼は、自分の正体を皆に明かす。
そして、狂人も自分の正体を明かす。
なぜならば、人数が2対2で、拮抗するから。
そう・・・2対2の同数となるため、「隔離者は無し」という投票結果となるのである。
そうして、夜に村人が噛まれたならば、次の日に残るのは、村人と狂人と人狼。
狂人は、人数としては、村人と数えられるため、表面上は、2対1と村人が多いようにカウントされるが、投票は逆。
狂人は、人狼を勝たせるよう動くため、人狼が隔離されることは無い。
人狼側が勝利条件を満たすことができるのである。
【④正岡 四季】は、このことを指摘し、【⑦川相 七瀬】を糾弾したのだ。
そして、頭の中にゲームマスターの声が響いた。
『投票まで、10秒です。』
黒板が残り時間をカウントダウンする。
『それでは、投票の時間です。人狼陣営だと思う人物の番号をタッチしてください。』
■投票の選択肢
【①松田 一花】
【②佐々木 仁朗】村人とみなされている
【③山本 三伸】 占い結果で、人狼ではない
【④正岡 四季】
【⑤五木 真央】 騎士
【⑦川相 七瀬】
【②佐々木 仁朗】は、【⑦川相 七瀬】の番号をタッチし、投票を行った。
なにもない空間に、皆が手を伸ばし投票するのが見える。
『投票を締め切りました。隔離されるのは【⑦川相 七瀬】です。』
ガコンッ
隔離カプセルが【⑦川相 七瀬】を吸い込んで、教室にまた恐ろしい夜がやって来るのであった。