ep.5 村人と考えて良い 2日目
『夜になりました。今日の獲物を選択してください。』
教室は、再び真っ暗闇にかわった。
夜の時間である。
しかし、迷うことは無い。
噛む相手は、1人しかいない。
当然のことながら、それは、占い師の【⑧岡崎 慎八】である。
【②佐々木 仁朗】は、昨夜と同じように今度は【⑧岡崎 慎八】の首へガブリと嚙みついた。
【 第5話 グッドジョブ 】
教室を覆っていた闇の衣がはがされ、窓から光が差し込む。
『夜が明け、朝になりました。村人たちは、話し合いを始めてください』
頭の中に響くゲームマスターの声。
ざわざわとした気配が教室に戻り、2日目が始まった。
その真ん中に死体は、無い。
パチパチパチ
「はい、グッジョブっ。」
【③山本 三伸】が、手を叩く。
「まぁ、当然のグッジョブだよね。守る所なんて1か所しかないんだもん。」
【⑤五木 真央】が続く。
「グッジョブって言うんだな。騎士が守ることを。それは、知らなかったな。」
【②佐々木 仁朗】は、不自然にならないよう気を付けながら、話を合わせた。
そう、1人だけの占い師が存在するのであれば、騎士の守り先が、そこ以外に向くわけがない。
しかし、それは、【②佐々木 仁朗】も計算済みである。
なぜなら、騎士の守りは、連続して同じ人を守ることが出来ないからだ。
昨夜、占い師の【⑧岡崎 慎八】を騎士が守ったならば、今夜は、守れない。
2日連続して襲撃すれば、どちらかの日に占い師を殺すことが出来るのである。
もちろん、昨夜、騎士が他を守る可能性もあり、その場合、今夜は、占い師を守ることが出来てしまうので、連続して噛むのは、揺るがすことのできない確定事項。
つまりは、【②佐々木 仁朗】は、守られることを承知の上で、昨夜、占い師の【⑧岡崎 慎八】を襲撃したわけであった。
■教室に残っている人物
【①松田 一花】
【②佐々木 仁朗】
【③山本 三伸】 占い結果で、人狼ではない
【④正岡 四季】
【⑤五木 真央】 騎士
【⑥斎藤 甚六】
【⑦川相 七瀬】
【⑧岡崎 慎八】 占い師
キーン コーン カーン コーン
1日目と同じようにチャイムの音で黒板に文字が浮かぶ。
【議論の残り時間10分00秒】
「じゃ、隔離カプセルの【⑨大島 久美】さんの結果ね。」
【①松田 一花】が、1日目に隔離した【⑨大島 久美】の隔離カプセルのモニターをタッチする。
【⑨大島 久美】=【人狼】
当たり前の結果である。
「まぁ、当然の結果だな。【⑨大島 久美】と、あそこまでバチバチと切りあってたんだから、【②佐々木 仁朗】が村人っていうのもほぼ確定だろう。そもそも、人狼が自分を隔離してくれって言うことは無いしな・・・で、結果は?」
【⑥斎藤 甚六】が【⑧岡崎 慎八】に占い結果を言うように求める。
「【③山本 三伸】は、人狼ではない。占った理由は、昨日あまりに無口だったからだ。」
「まぁ、占われても、仕方ないな。じゃ、騎士は、出てもらおうか。」
人狼ではない・・・占い師より白の結果を貰った【③山本 三伸】は、ぐるりとあたりを見渡しながら言い放った。
「騎士にカミングアウトさせるのか?」
【⑧岡崎 慎八】が驚いたように言う。
「当たり前だ。騎士を出して、それ以外の誰かを隔離する。騎士が出ることで、人狼と狂人を隔離できる確率を上げられるんだよ。」
その言葉を聞いて、【⑤五木 真央】が、手をあげた。
「私が、騎士よ。【③山本 三伸】君が言うことは正しいわ。」
【⑤五木 真央】が説明したのは、こういうことだった。
【③山本 三伸】は、占い結果により、人狼ではない。
【⑧岡崎 慎八】は、占い師である。
【⑤五木 真央】は、騎士である。
【②佐々木 仁朗】は、村人と考えて良い。
ならば、残るのは、【①松田 一花】【④正岡 四季】【⑥斎藤 甚六】【⑦川相 七瀬】の4人。
4人の中に、人狼は、1人・・・確率にして25%である。
そして、狂人も含まれるならば、4人の中に人狼陣営がいる確率は50%。
かなりの確率で、人狼陣営を隔離することが出来るわけだ。
「それに、間違って騎士を選んで隔離してしまったら、損だろ?まぁ、今夜、占い師の【⑧岡崎 慎八】が襲撃されて、その次の夜に騎士が襲撃される。それは、仕方ないと思わなきゃダメだな。」
【③山本 三伸】のこの言葉に、【⑤五木 真央】が、続ける。
「うん。狂人は、人狼陣営だけど、人狼ではない。だから、占いで白い結果が出ても【③山本 三伸】君が狂人である可能性は、否定できない。でもね、もし【③山本 三伸】君が狂人ならば、今の騎士を出して【①松田 一花】【④正岡 四季】【⑥斎藤 甚六】【⑦川相 七瀬】の4人から隔離者を選ぼうっていうのは、人狼が隔離される確率を上げる利敵行為。だから、【③山本 三伸】君が狂人である可能性は、まず無いの。つまり、人狼も狂人も4人の中に居る。50%で人狼陣営を隔離できるわけ。」
すると、【①松田 一花】が声をあげた。
「ねぇ、私も、今日は隔離しなくて良くない?」
「なんでだ?」
【⑧岡崎 慎八】が、聞き返す。
「だって、初日に【⑨大島 久美】さんから攻撃を受けてたから。あと、ちょっと気になる人がいるからっていうのもあるわ。」
「ふーん・・・口だけなら何とも言えるからなぁ・・・仲間だとばれないように、わざと攻撃したって可能性は否定できないな。でも、気になる人っていうのはなんだ?」
【③山本 三伸】が、興味深そうにたずねる。
「今日、【⑥斎藤 甚六】君を隔離したいの。」
「へぇ、それは、どうして?」
「初日に、【⑦川相 七瀬】さんが、占い結果を聞くために議論にストップをかけたじゃない?その直前に、【⑨大島 久美】さんが言った『【①松田 一花】と【②佐々木 仁朗】が繋がっている』っていう発言を『それは、いい指摘だと思う。』って、【⑥斎藤 甚六】君が肯定してた。これまでの会話の中で、【⑨大島 久美】さんと対立する意見を言う人は何人か居たけれども、【⑨大島 久美】さんの味方をする意見を言った人は、【⑥斎藤 甚六】君だけっ。そう思わない?」
「確かに・・・【⑥斎藤 甚六】君が、人狼だった【⑨大島 久美】さんの意見に同意したところで、私が議論をいったんストップさせたのは、覚えてる。って考えると、【⑥斎藤 甚六】君と【⑨大島 久美】さんに繋がりがあるかもしれないって意見は、分からなくもないわね。」
【⑦川相 七瀬】が、【①松田 一花】の話に納得したようにうなずいた。
「いいがかりでしかない。そんなの初日の情報がほぼ無い状態で、相槌を打ったみたいなもんだろ。それで、人狼だなんていうのは、乱暴すぎる。」
【⑥斎藤 甚六】は、即座にこれを否定した。
「うん。私には、議論を活性化させるために、ちょっと同意しただけみたいに見えたわ。」
【④正岡 四季】も、これを助ける。
その時、頭の中にゲームマスターの声が響いた。
『投票まで、10秒です。』
黒板の残り時間は、10秒からカウントダウンを始めている。
『それでは、投票の時間です。人狼陣営だと思う人物の番号をタッチしてください。』
■投票の選択肢
【①松田 一花】
【②佐々木 仁朗】村人とみなされている
【③山本 三伸】 占い結果で、人狼ではない
【④正岡 四季】
【⑤五木 真央】 騎士
【⑥斎藤 甚六】 ①に疑われている
【⑦川相 七瀬】
【⑧岡崎 慎八】 占い師
【②佐々木 仁朗】は、【⑥斎藤 甚六】をタッチしようとしてあることに気づいた。
・・・ん?そういえば、自分の名前と番号も出ているじゃないか・・・これって、もしかして自分もタッチできるのか?
そのことが気になった【②佐々木 仁朗】は、【②佐々木 仁朗】の番号をタッチし、投票を行った。
昨日と同じようになにもない空間に、皆が手を伸ばす。
そうして、ゲームマスターの声。
『投票を締め切りました。隔離されるのは【⑥斎藤 甚六】です。』
ガコンッ
ゲームマスターの声と同時に、教室の後ろの隔離カプセルが【⑥斎藤 甚六】を吸い込んで、教室は、闇に包まれた。