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ep.3 嘘と沈黙の朝 1日目①

教室を覆っていた闇の衣がはがされ、窓から光が差し込む。


『夜が明け、朝になりました。村人たちは、話し合いを始めてください』


頭の中に響くゲームマスターの声。


ざわざわとした気配が教室に戻った。


その真ん中に【⑩才市世野 義正】の死体がひとつ。


【②佐々木 仁朗】は、できるだけ自然に振る舞おうと動いた。


「ちょ・・・マジか?先生っ、いや、警察っ!」


「バカだな・・・ゲームだと言っただろ?」


初めて参加する人狼ゲームの被害者にビックリした様子を演技してみせたつもりだったのだが、クラスの人気者【③山本 三伸】が、うまく釣られてくれた。


「いや、ゲームって、どう見ても死んでるじゃん。ヤバいって。」


冷静な学級委員長【①松田 一花】は、ここでも冷静。


静かに口を開く。


「【②佐々木 仁朗】君。これが、このゲームなの。時間が無くなるから、そんなもんだと理解してっ。チャイムが鳴る前に、後ろの隔離カプセルに【⑩才市世野 義正】君を運ばなきゃいけないわ。」 




 【 第3話 居なくなった占い師と仁朗の決意 】




その言葉に後ろを振り返って見れば、教室の後ろに、人がひとり入れるほどの大きさの8個のカプセル。


「こんな大きなカプセル、いつ運び込まれたんだよ。朝学校に来た段階では、なかったよな?」


「知らないわよ。ゲームが始まって最初の夜が明けるといつも勝手に設置されてるの。ほらっ、【②佐々木 仁朗】君、足持って。カプセルにさえ入れて置けば、村陣営が勝ったら、生き返るから。」


 ・・・あ・・あり得ないって・・・そんなの・・・


自分が人狼で、この死体の喉に噛みついたのでなければ・・・そして、あの真面目な学級委員長の【①松田 一花】が説明したのでなければ、「ふざけるな」とでも怒鳴りつけるところだ。


しかし、【②佐々木 仁朗】は、これ以上しゃべらずに、【⑩才市世野 義正】の死体の両足を持ち上げて、隔離カプセルに運び込むのを手伝うことにした。


ここであまり食い下がりすぎると、のちのち人狼だと疑われる根拠にされる気がしたのだ。


そうして、隔離カプセルに【⑩才市世野 義正】の死体を安置して、カプセルの扉を閉めた瞬間、チャイムが鳴った。


 キーン コーン カーン コーン


チャイムの音と同時に、ゲームのようなメッセージが、黒板に浮かび上がる。


 【議論の残り時間10分00秒】

  【議論の残り時間09分59秒】

   【議論の残り時間09分58秒】


どうやら黒板は、デジタル式のタイマーのようだ。


同時に頭の中に響くのは、ゲームマスターの声。


『村人たちの、話し合い残り時間は、10分。投票まで残り10分です。』


「話し合いの残り時間?」


【②佐々木 仁朗】は、【①松田 一花】にたずねる。


「ちょっと待ってね。先に【⑩才市世野 義正】君の役職を確認しなきゃ。」


【①松田 一花】が、先ほど扉を閉めたばかりの【⑩才市世野 義正】の隔離カプセルにくっついているモニター画面にタッチする。


 【⑩才市世野 義正】=【村人】


すると、その画面に【⑩才市世野 義正】の役職が大きく表示された。


「村人・・・よかった。初日の犠牲者が、騎士や占い師だったら、村不利になるから。」


あぁ、脱落したら、役職が皆にオープンになるシステムなのか・・・ちょっと面倒かもしれない・・・


【②佐々木 仁朗】は、そんなことを思いながら、【①松田 一花】にたずねる。


「これは、【⑩才市世野 義正】が、同じ村人側だけど、役職を持ってなかったってことでいいのか?」


「うん。隔離カプセルの中に入れたら、チャイムが鳴った以降にボタンを押せば、モニターにその人の役職が表示されるの。」


これは、ちょっとした会話のトリックであった。


【①松田 一花】は、モニターの『【⑩才市世野 義正】=【村人】』という表記を見て、『村人・・・よかった。初日の犠牲者が、騎士や占い師だったら、村不利になるから』とつぶやいた。


このつぶやき自体が、まず村人側だというアピールである(まぁ、人狼は、【②佐々木 仁朗】と【⑨大島 久美】であるから、彼女が【狂人】でないならば、村人陣営であることは確定なのだが・・・)。


それに対し、【②佐々木 仁朗】の『同じ村人側だけど、役職を持ってなかったってことでいいのか?』は、初めての参加でシステムが分かっていないから質問していますよと見せながら、自分が村人チームに所属していることを【①松田 一花】にアピールする効果を狙ったものであった。


「おーい。トロトロしてないで、こっち戻れよ。」


そんな会話をしているふたりに、【⑥斎藤 甚六】が、声をかけてきた。


【①松田 一花】と【②佐々木 仁朗】は、あわてて皆の元へと戻った。


「じゃぁ、黒板の時間で残り7分0秒になった段階で、占い師は、夜の占いの結果を言うことっ。時間は絶対守ってよ。それまでフリートークね。」


【⑤五木 真央】が、進行役を務めようとする。


「ふーん。セオリー通りで不審な提案ではないけど、【⑤五木 真央】が進行するんだ。役職持ちなのか、人狼で主導権を取りに来たのか・・・」


いつも影が薄くて居るのか居ないのか分からない【④正岡 四季】が、ポーンと【⑤五木 真央】を雑に叩く言葉を投げてきた。


「うーん・・私にしたら、【④正岡 四季】の今の発言が黒く感じるわね。進行するから【⑤五木 真央】が役職持ちの可能性があるって、人狼側に教える必要が無い情報だもの。」


ツッコミを入れたのは、【⑦川相 七瀬】。


「何言ってるの。そんなのもう何回も対戦してるんだから、人狼側になった人が気付かないわけないでしょ。それよりも、雑であってもとりあえず何かツッコンで議論を始めることが、村に有益だから、一番手で発言したのよ。これって、むしろ、白く見るべき情報じゃない?」


【⑤五木 真央】が、言い返す。


「うーん・・・今の発言が黒い白いは、良く分からないけれども、そういう考え方があるんだっていうのは、知らなかったから、俺には役に立った。あっ、あとさっき一つ思ったのが、カプセルのモニターに【村人】って出たでしょ?その時に、【①松田 一花】さんが『初日の犠牲者が、騎士や占い師だったら、村不利になるから【⑩才市世野 義正】が、村人でよかった。』って言っていたから、【①松田 一花】さんは、村側じゃないかなぁ?って思う。」


これは、【②佐々木 仁朗】の発言。


意図としては、初心者アピールをしながら、【①松田 一花】を味方につける発言をすることで、自分が隔離される対象とならないようにしたのだ。


「あぁ、それを言うなら【②佐々木 仁朗】君もそうね。モニターに【村人】って出た時に、『これは、【⑩才市世野 義正】が、同じ村人側だけど、役職を持ってなかったってことでいいのか?』って確認してきたから・・・村側に所属していると見ていいかもしれない。」


予定通り【①松田 一花】が、【②佐々木 仁朗】の釣り針に引っかかった。


まずは、村側を1人、自分の味方につけることに成功した。そう思って【②佐々木 仁朗】は、表情を変えずに心になかでニヤリと笑った。


「ん~・・・それって、2人、怪しくない?なんか、その会話が、わざとらしいもん。2人のラインが繋がっている感じがする。あのさ、人狼は、【①松田 一花】と【②佐々木 仁朗】のペアって可能性も頭に入れて置いた方がいいんじゃないの?」


いじわるな口調で言葉を挟んできたのは、なんと【⑨大島 久美】だった。


 ・・・きっ・・切りに来やがった。


相方の人狼である【⑨大島 久美】は、【①松田 一花】と【②佐々木 仁朗】が繋がっていると主張することで、関係を切り、【②佐々木 仁朗】と同じ陣営ではないアピールをし始めたのだ。


「それは、いい指摘だと思う。」


【⑥斎藤 甚六】が、【⑨大島 久美】の話に乗っかるように、話を続けようとしたその時・・・


「はい、ちょっと待ってぇ。残り7分15秒。占い結果が聞こえなかったらダメだから、占い師以外は、結果を聞くまでしゃべらないでっ。」


【⑦川相 七瀬】が、議論にストップをかけた。


5、4,3,2,1,ゼロッ!


「・・・」


「・・・」


黒板の秒数は、7分0秒を過ぎ、6分台へと突入した。


しかし、誰も声を上げない。


残り7分で、結果を口にするはずの占い師が、名乗り出ないのだ。


「ちょっと、狂人とか、人狼陣営が偽占い師として出てこずに潜伏するのは、まだ理解できるけど、真占い師が出てこないってヤバすぎるって。ねぇ、占い師は、【⑤五木 真央】なんでしょ?進行をしてたから、役職を持ってるはずだし、占いだと思ってたんだけど。進行をしておいて占いじゃないなら、【⑤五木 真央】を隔離したいわ。」


【④正岡 四季】が怒ったような口調で言う。


「違う。占いじゃない。司会進行役をしたのは、初めて参加する【②佐々木 仁朗】君が居たから。手順的な情報を早く耳に入れておいて、分からなければ質問してもらうつもりだった。」


【⑤五木 真央】は、冷静な口調でこれに答える。


「そこらへんは、今は、どーでもいいよ。っていうか、議論の時間が無くなるから、さっさと出ろよ。」


【⑧岡崎 慎八】が、きょろきょろと皆の顔を見る。


 ・・・これは、もしかすると・・・アレか?


【⑧岡崎 慎八】の言葉を聞いて、あることに気づいた【②佐々木 仁朗】は、能動的に自分から行動を起こす決意を固めた。

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