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ep1. 休み明けの日常

【②佐々木 仁朗】は、ごく普通の高校1年生である。


  ガシャンっ!


「こんなマズい飯食えねーよっ!」


「文句言うなら食うなっ。」


いつものようにその日の朝も、皿が宙に舞った。


引きこもりの兄のひとりが、朝食を放り投げたのだ。


長兄がつぶやくようにそれをたしなめるのが、いつもの流れであった。


「おいっ、片付けて行け。床も拭くんだぞ。」


長いテーブルから立ち上がり、自分の部屋に戻ろうとした引きこもり男に、父親が言う。


【②佐々木 仁朗】は、この兄弟の八男。


ただ、普通と違うところを上げるならば、彼は、仲の悪い8人兄弟の末っ子であるということか・・・


「ご馳走さまでした。」


【②佐々木 仁朗】が静かに手を合わせるが、それを気にする者は、母親だけ。


その母親は、死んだ魚のような目でつぶやく。


「洗ってから、学校に行きなさいよ。」


シンク前に立ち、自分の皿を洗う。


しかし、たしかに原価いくらだよ?と思うほどのマズい飯ではあったが、作ってもらえるだけありがたいと思わなければならない。


そうして、彼は、時計を気にしながらカバンを肩にひっかけ、学校へと向かうのであった。


連休を合わせると、3週間ぶりと言ったところだろうか。


大型連休が終わり、10日ほど過ぎたこの日、彼、【②佐々木 仁朗】は、久しぶりに自身の通う高校へと足を運んだ。


ズル休みをしていたわけではない。


公休だ。


彼のかかった疾患は、第二種の学校感染症に定められており、解熱した後、最低3日を経過するまで出席停止とされていたのだ。


連休前にスーパー温泉で感染した「はしか」。


それこそが、彼が長期欠席をしていた理由であった。



 【 第1話 長い長い休み明けの朝 】



五月の風は、いつの間にか冷たさを失い、生ぬるい匂いを孕んでいた。


【②佐々木 仁朗】は、撫ででも撫でても元に戻らない寝ぐせを直しつつ、眠気を残したまぶたをこすってあくびをした。


【②佐々木 仁朗】の心はまだ昨日までの時間に引き留められている。


スーパー温泉で、声をかけてきた海外からの旅行客。


親切心で、広いスーパー温泉内を案内した。


彼らは、【②佐々木 仁朗】の分の飲食代をも支払ってくれた・・・しかし、大型連休前に発症したのは指定感染症の「はしか」・・・


おかげで、連休は、ずっと部屋に缶詰め。


まるで、悪夢を見ていたようであった。


肩に担ぐ少し重たい鞄。


制服のポケットには、一口食べてアルミ袋に戻した大豆のシリアルバーと、くしゃくしゃになった完治証明書。


彼が、シリアルバーの残りを口にしようかとポケットに手を突っ込んだその時・・・


「ちょっ・・・前見ろよ、スマホ運転すんなって!危ねぇなぁ。」


向かいから歩道を猛スピードで突っ込んできたのは、自転車の男。


スマホを凝視したまま、周囲を見ている様子はまるでない。


【②佐々木 仁朗】が慌ててよけなければ、確実に接触していた。


自転車の男は、そのまま通り過ぎ、謝罪の言葉など一切なし。


「ルールっていうのは、ちゃんと守らないと問題が起こるから作られてるんだよ。ルール守れよ、大人だろ・・・」


通学中の小学生が心配そうに振り返る中、彼は、眉間にしわを寄せながら、再び歩き出す。


そして、彼の通う高校が近づいてきた。


「今日、めっちゃ暑くない? 5月なのに夏みたい。」


「分かるぅ。あたし、制服ブレザー脱いでシャツだし。」


「てか、全然ヤバい。今日の英語。」


「あたし、小テスト用ノートまとめてたけど、半分も終わってない。」


「てかさ、範囲って、78ページまでって言ってたっけ?」


「あー逆っ。87ページ。」


「マジ!? 終わったー。」


校門が近づくにつれ、耳に入ってくる声が、彼を無理やり日常へと戻そうとする。


気怠さと、少しの緊張。


「くそだりぃ。」


小さく呟く声は、行き交う誰に届くわけでもなく、風にさらわれる。


教室には、朝の光が斜めに差し込んでいた。


いつもと違って、机は四つ角を囲むように並べられ、中央に数枚のトランプ風のカードが置かれている。


クラスメイトたちが集まり、張り詰めたような・・・どこか不安げな空気が漂っていた。


「ぉはよー・・・ってか、少なくね?」


【②佐々木 仁朗】の声に、親友の【⑩才市世野 義正】が、振り向いた。


「あぁ、【②佐々木 仁朗】は、生きてたんだったな。」


「いや、はしかでは、死なないって。」


「ちげーよ。まぁいいや。説明する役目は、おれじゃねぇし・・・」


そう言って、【⑩才市世野 義正】は、ちらりと左を見やる。


「やっぱり、私が説明するのね。」


視線を向けられ、少し困ったように声をかけてきたのは、いつでも冷静な学級委員長【①松田 一花】であった。


「信じられないかもしれないけど、落ち着いて聞いて。えっと・・・じゃあ、説明するね。これから私たちは、人狼ゲームをやるの。って言っても、ただのゲームじゃないよ。不思議なんだけど、この学校・・・っていうか、この教室全体が、変なフィールドになるの。チャイムが鳴った途端に・・・。」


「はぁ?変なフィールドってなんだよ。」


「私も、分かんないわよっ。」


ほんの少し声を荒げて【①松田 一花】が言い放つ。


「ホントに、分かんないの。ずっと休んでた【②佐々木 仁朗】君には、急に変なことを言い出したみたいに聞こえるかもしれないけれど、ゴールデンウイーク明けに登校してから・・・この人狼ゲームが始まった。不思議な力で、教室が変化して、役職が振り分けられる。クラスの人数って、25人だったでしょ?でも、今は【②佐々木 仁朗】君を入れて全部で10人。15人は、脱落したわ。存在が、消えちゃったの。もう、私たちクラスメイトですら名前も思い出せない。他のクラスの人にいたっては、他の15人が存在したことすら思い出してもらえない。この話を伝えても、バカにされるだけ・・・消えた子の家族に話をしに行った時なんか、不審者扱いされたもの。」


隣を見れば、【⑩才市世野 義正】が、うんうんと頷きながらこちらを見つめている。


 ・・・マジかよ。ひっひっふぅ、ひっひっふぅ、


【②佐々木 仁朗】は、パニックになりそうになる自分を落ちつけようと、鼻から息を吸って吐き出すように深呼吸をする。


 ・・・普通に考えたら、こいつらの頭がおかしくなったのか、壮大なドッキリ・・・


しかし、朝のホームルームが開始される時刻まであと5分となったにもかかわらず、教室に入ってくる生徒はおらず、担任のマキオちゃんも、来ない。


ドッキリにしては、手が込みすぎており、ここに居る10人全員の頭がおかしくなったというのは、人数が多すぎる。


「あと5分しかないから、急いで説明するね。」


そうして、混乱する【②佐々木 仁朗】を気の毒そうに見ながら、【①松田 一花】は、早口でこの人狼ゲームのルールを説明し始めた。

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