99 でしたら
「頑張ってアリエスお姉さん! 絶対に負けないで!」
「……アリエスさん……」
「……アリエスならなんとか出来るって信じてるから……」
シャンディー達がそれぞれの表情と思いを込めてアリエスに言葉をかける。三人にアリエスはうなずきだけを返すと、庭園の中心で待ち受けるベリーの前へと進んでいく。
そんな彼女や三人に、決闘の証人であり観戦者でもある取り巻き達がヒソヒソと声を交わしていた。
「……学園の聖女様で実技の実力も申し分ないベリー様に勝てるわけないのにね……」
「……可哀想に……彼女達はいまだにあの女に騙されているなんて……」
「……しっ。ベリー様が勝てばきっと目を覚ますはずですから……」
そのような言葉を言う彼らに、ピナは冷めた視線を、シャンディーは怒ったような目を向ける。シャンディーが何か文句を言おうとしたとき、それを止めるようにメークが言葉を挟んだ。
「お嬢様、文句を言っても事態は変わりません」
「メーク、でも……」
「お気持ちは私も同じです。だからこそ、信じるのです。アリエスさんが全てを解決して、私達のところへ帰ってくるのを」
メークはアリエスとベリーから目を離さずに言う。信じている……だからこそこの結末を見届けるのだと。
「…………、うん……分かったよ、メーク」
その言葉と眼差しに、シャンディーもアリエスのほうへと見守りの眼差しを向けるのだった。
…………。
ベリーの足元に魔法陣が浮かび上がり、彼女の身体に魔法の光がまとわれていく。衣装を変更する魔法であり、ベリーが戦闘に適した動きやすい服装……ギルドの冒険者のような服装に着替える。
アリエスもまた足元に魔法陣を展開して、戦うための服に変更する。アリエスは学園の実技の授業のときに使う服装であり、ベリーのものほど本格的な服ではなかった。
さしづめ、ベリーは女剣士、アリエスは見習い冒険者といった出で立ちだろうか。装備の性能という面に関しては、ベリーのほうが明らかに上だった。
アリエスは三度ベリーと対峙する。一度目は転生前の夕方の教室で、二度目は転生後の学舎裏で、そして三度目はいま……全ての因縁に決着をつけるこのときに。
「そういえば、貴方が勝ったときの見返りを聞いていませんでしたわね」
しかしベリーにそんなアリエスが思う因縁や思いなどはどうでもいい。そもそも、いまのベリーは一年前のことなど全く覚えていないのだから。
「どうせワタクシが勝つにしても、これは決闘ですものね、貴方が勝ったときの見返りがなければ他の方々に示しがつきませんわ」
ベリーにとって、この決闘はあくまで建前であり、その実はアリエスの公開処刑やベリーが聖女として名を馳せる通過儀礼にすぎない。だとしても、やはり表向きには互いに公平で平等であることを示さなければならない。
でなければ、家族や親戚や取り巻き達に自慢が出来ないのだから。優越感に浸れないのだから。
「……いいえ。わたしにそんなものは必要ありません」
だが真面目な顔つきでいらないと言うアリエスに、ベリーは小さくフンと鼻を鳴らした。これから自分に蹂躙されるだけの女が、何を言っているのだろうと思ったらしい。
「殊勝な心掛けね。でもね、これは貴方の為じゃなくてワタクシの名誉の為の条件なのよ。たとえワタクシが勝つことが分かりきっていてもの」
「…………、でしたら、わたしがあなたに勝ったら、あなたに借りっぱなしになっているお金を返済したいと思います」
「はい?」




