97 女神様の用意した
何もかもが遅かった。遅すぎた。取り巻き達はベリーの信者であり、彼女の言葉こそが正しいと信じている。ベリーが被害者だと、騙されていると言えば、この場このとき、取り巻き達にとってはそれが『真実』となるのだ。
ベリーはなおも続ける。今度は手を胸に当て、心を痛めているという慈愛ある聖女の演技をしながら。
「無論、ワタクシはアリエスさんを説得致しました。真実を知ったときから、ついいまさっきまで、彼女に悪行をやめるように訴えました。しかしアリエスさんはワタクシの言うことになど耳を貸さず、邪魔をするなら消してしまうとまで仰ったのです」
心底から悲しみに暮れるように、ベリーは顔を両手で覆う。彼女は糾弾しているアリエスにいまだ敬語を使っているが、それはベリー自身の聖女らしさや清らかさをアピールするための策の一つだった。
たとえ敵に対するときも、乱暴な言葉よりは丁寧な言葉のほうが、発話者のイメージは良くなるだろうと考えて。
「アリエスさんの魔の手から彼らを助け出すには、もはや彼女を打ち倒すしかないと……ワタクシは悟ってしまったのです。これはワタクシの本意ではありません。しかし……もう武力に訴えることでしか、彼らにかけられた呪縛を解く方法はないのです……!」
ベリーの言葉にはわずかな泣き声や嗚咽も混じっていた。傍目には涙や悲しみを必死に堪えて、その最終手段を選択せざるを得なかった……そういうふうに見えただろう。
そう見えるようにベリーは迫真の演技をしていたのだ。
「だからワタクシは決めたのです!」
ベリーが顔から手を離し、その顔を上げてパーティー会場の奥へと視線を飛ばす。その先には広大な中庭に面したガラスの壁……一面巨大なガラス窓があった。
そのガラス窓へとベリーが手を伸ばす。窓を開ける魔法でも使ったのだろうか、その動きに合わせてガラス窓が左右に開かれた。
そしてベリーはアリエスへと振り返って、宣戦布告する。
「アリエスさん、ワタクシと正々堂々、一対一で戦いなさい! これは決闘です! ワタクシが見事勝利した場合は、シューグ家やピナさん達に謝罪して、もう二度と金輪際悪さはしないと誓いなさい!」
『…………っ⁉』
シャンディーやピナやメーク、および取り巻き達が驚愕に目を開く。ベリーからアリエスに向けた、正式な決闘の申し込み。
ベリーがかざした『正義』を、この場にいる全員に認めさせるための決闘だった。
そんな誰もが驚き、それぞれの興奮状態にあるなか、ただ一人アリエスだけは無言のまま……しかし心ではどこか納得していた。
(……そう……これが女神様の用意した、わたしとベリーさんの『決着』のときなのね……)




