96 届かない
ベリーの衝撃の発言に、その場にいた全員が驚愕に彩られた顔を浮かべた。誰かが何かを言う前に、アリエス達が否定の言葉を紡ぐ前に、ベリーは再び取り巻き達へと振り向いて訴える。
嘘と欺瞞に満ちた言葉の雨を。
「アリエスさんはまさに悪魔のような悪女なのです! ピナさんを脅して悪役令嬢を演じさせ、それを突き止めたワタクシの命すら狙ってきました! のみならず、シューグ家に取り入ってその財産を全て我が物とするために暗躍しているのです!」
『な、なんですって⁉』
「実はピナさんのお母様は大病を患っていたのですが、その原因もまたアリエスさんだったのです。彼女はシューグ家を暗殺するために毒薬を作ったのですが、その効果の実験としてピナさんのお母様を選んだのです。ワタクシが突き止めて専門の病院に入院させなければ、ピナさんのお母様は死んでしまっていたでしょう」
一部の真実を織り交ぜた上での、自身を正義だと主張する、嘘。あとでピナの母親や病院などの当事者に聞いたり、きちんと調べれば分かってしまうはずの、嘘。
しかしそれが判明するのはあくまで、このパーティーが終わった明日以降での話。いまこの瞬間、ベリーの話を聞いている彼ら取り巻き連中にとっては、彼女の主張、話こそが、『真実』として聞こえてしまう。
ベリーはいまこの瞬間だけ、アリエスを絶望の崖に叩き落とすことだけを目的として、このような悪魔じみた嘘を羅列しているのだ。
「違うよ! アリエスお姉さんはそんな人じゃない!」
『……っ⁉』
そんなベリーの嘘偽りに口を挟んだのはシャンディーだった。否、彼女だけではなくアリエスとともに来ていたピナとメークも口を揃えて否定する。
「ふざけないで! アリエスがそんなことするわけないじゃない!」
「お嬢様とピナさんの仰る通りです。また私も知っています、アリエスさんはそのような卑劣な真似をするかたではありません……!」
アリエスが三人を見て、
「シャンディー、ピナさん、メークさん……」
と言葉を漏らす。取り巻き達も三人の訴えに戸惑った様子を見せる。
しかしアリエスには予感があった。……ベリーさんにしてやられた……もうこの状況で誤解を解くのは至難の業だろうと。
そして事実、ベリーは三人の訴えの直後に、彼女らを哀れむように視線を向けながら言うのだ。
「お可哀想に……アリエスさんに言葉巧みに洗脳されてしまっているのですね」
それから取り巻き達に再び顔を向けて。
「皆さん、彼女達を責めてはいけません。彼女達はアリエスさんに騙されてしまっている被害者なのです。真に憎むべきは、倒さなくてはならないのは……ここにいるアリエス=ユースという魔女なのです」
取り巻き達がハッとした顔になる。シャンディー達がなおも、
「違う、違うの、アリエスお姉さんは……っ!」
「みんな信じて!」
「皆さん、どうか……!」
信じてもらうための言葉を訴えるが、アリエスにはもう、三人の言葉は彼らには届かないだろうなということが予想出来てしまっていた。




