93 運命のディナーパーティーの日
そして数日後、運命のディナーパーティーの日がやってくる。
「すまないわね、あたしも送ってもらっちゃって」
「ううん、ピナさんももう友達だから」
ベリーの屋敷へと向かう馬車のなか、シャンディーの爛漫な返答にピナは思わず微笑んでしまう。対面に座るアリエスに向いて言う。
「可愛い子ね。いつも一緒にいるあんたがうらやましいくらい」
「それなら、ピナさんもシューグ家にメイドとして来ますか? ピナさんがよろしければですが」
「あはは、あたしは紛いなりにも貴族の娘よ。……でもまあ、考えてはおくわ、バイトはしなくちゃいけないし」
今日のディナーパーティーを乗り切ったあと、ピナはベリーに借金を返済していくつもりだった。もしも平和に終われたなら、だが。
「ピナさんがうちに来るなら、わたしは大歓迎だよ」
「ありがと」
笑顔で言うシャンディーにピナは微笑みを返す。
車内にいるのは四人。シャンディーとアリエス、ピナ、および付き添いメイドのメークだ。メークはメイド服だが、彼女以外の三人はパーティーに似合ったドレスを着ていた。
「見えてきましたよ、あれがベリー様のお屋敷のようです」
メークが窓外に目を向けて言い、シャンディーが窓際に身を乗り出すようにして小さな歓声を漏らす。
「うわぁ……大きなお屋敷だねぇ」
「……シューグ家に比べれば、まだまだですがね」
「もぅっ、メークったら」
メークが毒を吐いたのも無理はないだろう。数日前にアリエスの転生した話を聞いたときに、ベリーの所業についても知ったのだ。
またアリエスに他言無用と口止めされた上で、学舎裏での出来事についても知らされていた。今夜のディナーパーティーで何かが起こる……その予感がある以上、自然と毒舌になってしまうのだ。
……もしもなにかが起きたら、私がお嬢様を守る。もちろん、アリエスさんとピナさんも。
メークは心のうちでそう決心していた。
ベリーの屋敷を眺める二人を横目に見ながら、ピナはアリエスに小さな声で話しかけた。
「……アリエス、なにかが起きたときのために準備してきた?」
「……一応、役に立ちそうな魔法を調べておきました。なにが起きるか分かりませんが、なにが起きても対応出来るように」
「……そう。あたしはあんたみたいに器用じゃないからね、とりあえず通信魔法具とかを用意して、助けを呼べるようにはしといたけど……」
「……使わずに済むことを祈るばかりですね」
やがて馬車がベリーの屋敷内に入り、停車する。御者をしていた執事長がドアを開けて、恭しい所作で言った。
「皆様、ご到着致しました」
「ありがとっ、執事長、それじゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
「ほらアリエスお姉さんも一緒に」
シャンディーがアリエスの手を引いて、一緒に馬車を降りていく。次いでピナ、最後にメークと続き……ドアを閉める執事長にメークが言った。
「お嬢様達のことは私にお任せください。執事長は馬車に残って、いつでも発車出来るようにしておいてください」
「……物騒ですね……」
「…………」
「…………」
無言で見つめるメークに、執事長は小さなうなずきを返して御者台へと戻っていく。そして馬車の綱を握り、屋敷の停車場へと向かっていった。
メークもアリエスもピナもシャンディーも、誰にも自分達が直面している事情は話していない。しかし執事長はメークの口振りから、なにかを察したのだろう。




