91 『絶対に』
そのときベリーが明確に狼狽えた。それを見て、アリエスとピナは悟る……いや、以前から薄々と察してはいたのだが……ベリーは家族には自分の計画のことを秘密にして、ただ『学園の聖女』という結果……偶像だけを話しているのだ。
いまこの瞬間、ベリーは確実に窮地に立たされていた。どのような道を辿ろうが、ベリーの計画が外部に露見することは決定していて、時間の問題のように思われた。
……しかし次の瞬間。
ドゴン……ッ! ベリーが近くに並んでいた木立の一本へと手を伸ばして、手から放った魔力弾によってその幹を撃ち抜いていく。ズズゥン……ッ、支えを失った木が地響きを上げるようにして倒れていく。
「「……っ⁉」」
唐突な出来事にアリエスとピナは驚愕の顔を浮かべ……そんな二人へと、ベリーはわずかにうつむけていた顔を上げた。そこには先ほどまでの追い詰められた様子は皆無で、まるで何事もなかったかのような晴れやかな笑顔が浮かべられていた。
「分かりましたわ、アリエスさん、ピナさん。貴方達の条件を飲みましょう」
「「……っ」」
ぞく……っ。人が変わったみたいなベリーの変わりように、アリエスとピナは全身に寒気が走った。頬や背中に気持ちの悪い冷や汗が流れていく感覚。
「いまこのときをもって、ピナさんとの契約を解消致します。ピナさんのお母様の治療費は、今後少しずつ、ピナさんが無理のない範囲で返済していただければ結構でございます」
「「……⁉」」
その言葉は二人が望んでいた言葉、そのはずだった。しかしピナもアリエスも素直に喜びの声や表情を出せないでいる。
いやむしろ、不気味ささえ感じていた。イライラが頂点に達し、精神的に追い詰められ、ついに一瞬だけ爆発した理性……その直後の満面の笑顔と、受け入れられた条件。
絶対になにかある。だけどそれが分からない。なにを考えているのかが分からない。それが不気味だった。
「……まぁ、ワタクシったら大変な粗相を。いまの音を聞いて人が駆けつけてきてしまったみたいですわね」
確かに遠くから何人もの足音が聞こえてくる。しかしベリーは笑みを崩さず。
「彼らにはワタクシから説明しておきますわ。倒してしまった木も、ワタクシが弁償しておきましょう。お二人は何も心配することはありませんわよ」
その過ぎたほどの慇懃丁寧さが、逆に心配と不安の塊であった。
二人の内心に気付いた様子もなく、ベリーは足音のほうへと振り返り、そちらへと歩いていく。しかしその途中で一度二人に振り返ると、依然不気味すぎるほどの笑顔で言う。
「そうそう、今度のお休みのディナーパーティー、とても楽しみにしておりますわ。素敵なディナーに出来るよう、『絶対に』、来てくださいね」
「「……っ」」
そうしてベリーは二人の前から立ち去っていった。
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