90 あんたがそれ言う?
「……聞き間違いかしら? 断られたように聞こえたのだけど、そんなまさかね」
「そのまさかです。聞き間違いでも言い間違いでもありません」
「……っ!」
ベリーがギリッと奥歯を噛む。先ほどから感じていたイライラ、それが器からこぼれ始めていた。強い語調で言う。
「何言ってるの貴方、ワタクシが大金を支払って契約して、治療費も返さなくていいと言ってるのよ。こんなチャンス、貧しい庶民の貴方にはもう二度とないチャンスなのよ。貴方だけじゃなく、そいつにとってもまたとないチャンスだわ。借金をチャラに出来るんだから」
「「…………」」
ベリーはピナを指差した。
「だいたい貴方、契約を肩代わりしないというのなら、この女を見捨てることになるのよ。こいつはこれからもずっと悪役令嬢をし続けるのよ。それをやめさせる為に、アンタ達はワタクシに刃向かってるんじゃないの」
「……見捨てません。悪役令嬢も続けさせません。ベリーさんが立て替えてくださったお金は必ずや返済致します」
ピナがアリエスを見た。
「アリエス、あんたがあたしの肩代わりにならないことは前にも聞いてたからそうだと思ってたけど……お母さんの治療費はどうするつもりなの?」
「……案はいくつか考えていますが……とりあえずシューグ様に相談してみようと思います。シューグ様なら事情を話せば、お金を工面してベリーさんに一括返済していただけるかもしれません」
「でも……それって借金の相手がシューグさんに変わっただけなんじゃあ……」
アリエスはうなずく。
「ええ、その通りです。だから、アルバイトや学園卒業後は仕事をして、時間をかけて返済していくんです。シューグ様ならお待ちになってくださると思いますから」
「「……っ!」」
ピナとベリーは同時に反応を示した。ピナは、それなら出来るかもしれないという希望的観測を……そしてベリーは、そんなまさかというような驚きを。
ベリーの感情を逆撫でするためアリエスは口に出して明言しなかったが、その彼女の案はつまるところ、ベリーの犯罪や売春などをしてでもいいから一括返済しろという言葉や考えを否定するものだった。
彼女よりもシューグのほうが信じるに値すると、暗に言っているようなものだった。
「そんなの! そんなのアンタの勝手な願望でしょ! 自分勝手な都合を押し付けてんじゃないわよ!」
ベリーが声を荒げる。自分の計画が崩れそうになって、焦り始めているのだ。
シューグに事情を打ち明けるということは、つまり自分のいままでの計画も知られることになるのだから。シューグ家を通して、他の貴族家にも筒抜けになるかもしれないのだから。
……無論、アリエス自体は、シューグがそんな口の軽い人間だとは思ってはいなかったのだが……。
ピナがベリーに呆れた目を向ける。あんたがそれ言う? そう言いたげな顔だった。
しかしベリーはそれに気付いていない様子で、あるいは無視した様子で声を続ける。
「そんなことワタクシは許さないわよ! そんなお金ワタクシは絶対に受け取らないからね!」
「でしたらベリーさんのお父様かお母様にお渡し致します。ベリーさんから借りたお金だと説明して」
「……っ⁉」




