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9 シューグ家


 道行く通行人の視線は我慢出来た。びしょ濡れの女の子が二人並んで歩いているのだから、目を引いてしまうのは仕方のないことだからだ。

 しかし早くなんとかしなければと思ったのは、全身が濡れてしまったせいで寒いことだった。秋や冬の肌寒い季節じゃなくて本当に良かったと思う、もし秋や冬だったなら、凍えて死んでしまっていたかもしれない。


「もうすぐわたしの家だからね、アリエスお姉さん。そしたら一緒にお風呂に入って温まろうね」

「でも、本当に良いの? お風呂に入れてもらって」

「うん。だってアリエスお姉さんはわたしの命の恩人だから」


 少女を助けたあと、彼女に名前を聞かれて、アリエスは簡単な自己紹介をしていた。アリエスという名前や近くのアパートに住んでいること、仕事を探していることなど……無論、女神に転生してもらったことは、話しても信じられないだろうから話さなかったが。


「お風呂から出たら、一緒に朝ご飯食べようね。お母さんが作るご飯はどれも絶品なんだから」

「わたしも食べていいの?」

「もちろん! だってアリエスお姉さんは……」


 命の恩人なのだから。

 さっきから少女はこの調子だった。助けてもらったことが本当にうれしかったのだろう、彼女はアリエスにすっかりなついてしまっていた。

 そんなこんなで二人は少女の自宅へと到着する。彼女の自宅を一目見て、アリエスは驚いてしまった。少女の家は、転生前のアリエスと同じくらい大きく広い屋敷だったからだ。


「あなた、貴族だったの……⁉」

「うんっ。わたしの本名はシャンディー=シューグっていうのっ。よく分かんないけど、お父さんはいっぱいお小遣いをくれるのっ」

「シューグ家……!」


 シューグ家といえば、社交界でも有名な家柄だった。一代で財を成し、その現当主は経済界や政界にも顔が利くという。

 ただしシューグ家自体は社交界にあまり興味がないらしく、現当主含めて家族は社交界に現れることはかなり少なかった。現当主が元々市井の一般人だったため、社交界には慣れていないらしい。


「おっ、お嬢、おかえり」

「ただいま、ガードナーさんっ」


 おそらく庭師なのだろう、庭園の整備をしていた男が少女に挨拶する。しかし彼は彼女のずぶ濡れになっている格好に気付くと、途端に慌てた様子になった。


「お、お嬢⁉ どうしたんですかい⁉ その格好は⁉」

「あ、あのね、実は猫を追いかけてたら川で溺れちゃって……」

「川で⁉」

「で、でも、ここにいるアリエスお姉さんに……」

「こうしちゃいられない! いま奥様を呼んできますから!」


 ガードナーと呼ばれた男はすぐさま屋敷へと駆けていき、数十秒後には一人の女性を連れて戻ってきた。この屋敷はとても広いはずだが、もしかしたら娘の帰りを待ちわびて玄関の近くの部屋にいたのかもしれない。


「シャンディー!」


 少女の姿を認めた女性が驚きの声を上げる。そして少女のそばにいたアリエスのことも認めて、彼女もまたずぶ濡れだったことに気付くと、全てを察したように険しい顔つきになった。


「お、お母さん、これはね……」


 さっき起きたことについて説明しようとしたシャンディーの頬を、パチンッと母親が平手打ちした。


「「あっ⁉」」


 思わずアリエスと庭師が声を出す。二人に構わず母親は険しい顔と声でシャンディーへと。


「あれほど気を付けなさいと言ったでしょう! もし死んでいたらどうするのですか!」

「……ごめんなさい……」


 謝るシャンディー。しかし次の瞬間、母親はそんな彼女の身体を抱きしめた。


「良かった……生きていて、本当に良かった……」

「……お母さん……っ」


 母親は心からの安心した声を漏らすのだった。




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