82 ありがとう
アリエスとピナがシャンディー達のところに戻り、ピナが二人に声をかける。
「それじゃあ帰りましょうか。一応、目的は達したから」
ピナの目的……それはアリエスの言葉の真偽を確かめることだった。そしてそれは達せられ、彼女はアリエスを信じることにしたのだ。
記事に視線を落としていたメークがピナとアリエスのほうに顔を上げる。彼女にしてみれば記事の不可解性が解けたわけではなく、なんとも言い難い凝りの残ったような顔をしていたが……仕方なしとして、いまだ記事のピンボケ写真から目を離さないでいるシャンディーに言う。
「お嬢様、ピナ様もああ言っていますし、帰りましょうか。出したこれらの記事を元の場所に戻して……お嬢様?」
ピナの言葉もメークの言葉も聞こえていないかのように、シャンディーはピンボケ写真を見つめ続けている。そのとき、不意に彼女の瞳から一滴の涙がこぼれていった。
「お、お嬢様……⁉」
珍しくメークが慌てた声を出す。シャンディーがいきなり泣いたことにびっくりしたからだ。
それはアリエスやピナも同様であり、二人は驚いた顔をする。アリエスもまた慌てたようにシャンディーに声をかけた。
「しゃ、シャンディー? どうしたのですか? 目にごみでも……」
「……ううん、違う、違うの、アリエスお姉さん」
シャンディーが目元を拭う。しかし涙は収まるところを知らず、二滴三滴と流れていく。
「あれ……おかしい、おかしいな……涙が止まらないよ……」
涙を流しながら振り返るシャンディーを、
「シャンディー……」
「お嬢様……」
「…………」
アリエスとメークとピナは見つめる。シャンディーはいまだ涙を流し続けながら、アリエスの胸へと抱きついた。
「違う、違うの、悲しいわけじゃないの、目にごみが入ったわけじゃないの……思い出したの、わたし、思い出したの……」
「え……」
……思い出した……? まさか……?
アリエスの胸に顔を埋めるようにしながら、アリエスをひしと抱きしめながら、シャンディーは言葉を紡ぐ。
「思い出したの、わたし……わたしは、アリエスお姉さんに助けられた……一年前、わたしは馬車に轢かれそうになって……アリエスお姉さんに助けられたの……っ」
「シャンディー……それは……っ」
驚きに満ちた顔でアリエスがシャンディーを見つめ、言葉を聞いていたピナも二人を真剣な顔で見つめる。メークだけはどういうことなのか分からず、戸惑った様子をしていたが……シャンディーは涙ながらに言葉を紡ぎ続ける。
「どうしていままで忘れてたんだろう……こんな大事なこと……絶対に忘れられない、忘れたくないことのはずなのに……」
「シャンディー……」
「アリエスお姉さんがなんで生き返ったのか、分からないことばかりだけど……これだけは言わなきゃってずっと思ってた……もしも奇跡が起きて、助けてくれた人にもう一度出会えたら、言わなきゃって思ってた……」
シャンディーは涙で濡れた顔を上げて、そして言った。
「ありがとう……わたしを助けてくれて、本当にありがとう……っ」
「……シャンディー……っ」
シャンディーはアリエスを抱きしめ、アリエスもまたシャンディーを抱きしめ返した。
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