69 物色
(……彼女が……いまのベリーさんの……)
どうしようかと、歩きながらアリエスは考える。ピナに会って話をすることは決定事項だが、問題はいつそうするかだ。
授業の合間の小休憩では時間が足りない、昼休みや放課後ではシャンディーと会うため時間が取れない、授業のない休日はシューグ家でメイドの仕事がある……。ならばチャンスは……。
魔法学実験室の前までやってきたとき、慌てたようにアリエスはクラスメイト達に言った。
「いけない、昨日出された宿題のプリントを教室に忘れてきてしまいました。急いで取ってきます」
「大丈夫? もうすぐ授業が始まりますわよ」
「もしかしたら遅れてしまうかもしれません。先生にはそう伝えておいてください」
「分かりましたわ。転ばないようにお気を付けてね」
心配するクラスメイトの視線を背中に受けながら、アリエスは小走りで廊下を駆けていく。偶然にもピナはアリエス達の教室があるほうへ歩いていったので、進行方向で怪しまれることはなさそうだった。
(彼女……ピナさん、いったいどこへ……)
駆けながらピナの姿を探していると、すぐに見つかった。廊下の先を歩いていて、とある教室のなかへと入っていく。入る前に周囲を見回したりはしていなく、まるでそれが当然というような振る舞いだった。
(あそこがピナさんの教室なのかしら……?)
あまりにも堂々としていたため、てっきりそう思ってしまうくらいだった。しかしアリエスがそこに近付いていくにつれて、それは間違いだったと悟る。
(え……ここは、わたし達の教室……?)
教室のドアの上部に掲げられたプレートには、アリエス達の教室名が印字されていた。しかしアリエスは昨日教室でピナの姿を見たことがないし、欠席者もいなかったはずだ。
ピナは自分の所属しているのとは違う、移動教室で誰もいなくなったアリエス達の教室へと無断で入っていったのだ。
(まさか……)
アリエスは廊下で立ち止まり、そっとドアの陰から教室内を覗いてみる。彼女が予想していた通り、ピナはとある机のなかや横の金具にかかる鞄をがさごそと物色していた。それはベリーの机だった。
(あれは……ベリーさんの机……彼女、もしかしてベリーさんの弱味を握ろうと……?)
ピナがベリーに利用されている……まだ確証はないが、おそらくそれは当たっているのだろう。でなければ、ピナがベリーの机を物色する理由を、アリエスは他に思い当たらない。
(彼女はベリーさんに下剋上するつもりなのかもしれない)




