68 ピナ
「あ……そういえばお昼のお弁当、余っちゃってたんだ……どうしよう……」
「珍しいですね。いつもは足りないと文句を言うくらいなのに」
「……うん……昼食会に誘われちゃって……」
シャンディーとメークの会話が聞こえてくる。アリエスの弁当も手つかずのまま残っていた。
「それなら、夕食の一部にそれを回しましょうか。もったいないですし」
「うん、そうだね、お願い」
「もしくは夕食までの間食に食べますか? お嬢様ならお弁当も夕食も全部残さず平らげてしまうでしょうし」
「もぉ、わたしだって一度にそんなには食べられないよ。メークは失礼だなぁ、ね、アリエスお姉さんからも言ってやってよ」
話を振られて、アリエスは微笑みを返す。
「わたしのも残ってますから、どうですか?」
「むぅ、アリエスお姉さんも意地悪っ」
頬を膨らませるシャンディーに、その場が笑顔と笑い声で満たされる。楽しく、穏やかで、平和な時間。
(この時間を、この人達を、ベリーさんに利用させるわけにはいかない)
アリエスは思うのだ。そのために、自分に出来ることを。
(……学園の不良学生を探そう……)
ベリーが一年前と変わっていないのならば。前世のアリエスと同じように、ベリーに利用されている境遇の者が必ずやいるはずだろう。
●
翌日、学園の不良学生は探すまでもなく見つかった。移動教室の授業でアリエスが魔法学実験室に向かっていたとき、廊下の先から一人の女子学生が歩いてくるのが見えたのだが……。
「ねぇ……」
「あ……」
一緒に実験室まで向かっていたクラスメイト達が彼女の姿を見て、ヒソヒソ声で何かしら会話していた。アリエスの耳に届いてきたその内容は。
「……ピナさんよ……」
「……しっ、見ちゃ駄目よ。因縁をつけられちゃうわよ」
「……授業をサボるのなら学園に来なければいいのに」
「……なんで退学にならないのかしらね」
それはアリエスが前世で言われていた言葉とほとんど同じものだった。アリエスは直感する、ピナと呼ばれたあの女子学生こそが、現在ベリーに利用されている人物だと。
そもそも、元々この学園は名家や貴族家の令嬢や令息が通っていることもあり、不良学生はほとんどいないのだ。アリエスのときですら、アリエス以外には不良と呼ばれている者はいなかった。
そしてアリエスに確信させた事柄として、一瞬ではあるがベリーがピナに視線を向け、ピナもまたベリーのほうをちら見したことだった。クラスメイト達はピナを警戒したりベリーの機嫌を取ることに意識が向いていたからか、二人の視線には気付いていないようだった。




