67 前世の因縁
「シューグ家のお嬢様とのお約束なら仕方ありませんわね。ではご機嫌よう。いずれ機会があれば、そのときは一緒に帰りましょうね、アリエスさん」
「はい。ありがとうございます」
ベリーもまた納得したように、うなずきながら言っていた。おそらくは、さすがに現段階ではシューグ家を差し置いて自らの意向を通すのは得策ではないと判断したのだろう。
いくら学園の聖女と呼ばれていて、家格の高い貴族家であるベリーといえど、シューグ家と真っ向から対立し敵に回すのは避けたいのだ。そのため、いましばらくの間はアリエスはシャンディーとともに帰宅の途に就けるだろう。
……その後、アリエスは馬車の停車場でシャンディーと合流し、シューグ家の馬車で帰路に就いていた。
「今日はね、こんなことがあったんだよ。アンがね、あ、アンっていうのはわたしの友達で」
「アン=ハギーさんですね」
「うん」
馬車のなか、シャンディーは明るくアリエスに話しかけていた。昼休みのときは一時的に元気をなくしていたようだったが、なんとかこの数時間で気を取り直したようだった。
馬車にはメークも同席していた。朝の通勤時にはシューグもいたが、帰りのこの馬車にはまだ仕事があるらしく、帰宅時間が合わないために乗っていない。
シャンディーやメークといつものような和やかな会話を交わしながら、頭の片隅でアリエスは考えていた。
(……今度こそ上手くやっていく……けれどそれはベリーさんの顔色を窺って過ごしていくわけじゃない……)
ベリーの顔色を窺い、機嫌を取り、波風立たぬように過ごしていけば、少なからずその間は平穏に過ごせるかもしれない。
(……今日、ベリーさんの振る舞いを見て分かった……彼女は、シューグ家とつながりのあるわたしを介して、自分もシューグ家に取り入ろうとしている……)
シャンディーをともに招いての昼食会、アリエスを帰宅の馬車で送迎する誘い……普段のベリーであれば、ただの編入生にそこまでのことはしないはずだった。彼女は間違いなくシューグ家とのつながりを狙っているのである。
(ベリーさんのこと……シューグ家と強いつながりを持ったら、いったいなにをするか分からない……わたしはそれを防がなければいけない……)
皮肉なことではあるが、アリエスがベリーと同じクラスに編入し、シューグ家とのつながりがあることが知られたことで、ベリーとシューグ家をつなぎかねない事態になっているのである。故意ではなかったとはいえ、自分がきっかけになった以上、アリエス自身でなんとかしなければと思ったのだ。
(もしかして、これも女神様の仕向けたことなの……? わたしとベリーさんを戦わせるために……前世での因縁に決着をつけるために……)
真実のところ、女神が本当に関わっているかは分からない。分かっていることは、これは前世の因縁に決着をつけるチャンスでもあるということ。
(そのために、わたしが出来ることは……)
ぱっと思い浮かんだのは……前世で悪役令嬢を演じていた自分の境遇だった。誰にも見つからないように涙を流していた自分の過去だった。




