64 昼食会
思わず振り返ったアリエスの元まで、朝と同じようにベリーが近付いていきその手を取る。そしてまた朝と同じようににっこりと笑顔を浮かべて言うのだ。
「よろしければ、ワタクシや皆さんと一緒にお昼を食べませんか? ここの食堂には親しい方がいましてね、広い中庭で昼食会を開いて食べましょうよ」
「え、えっと……」
食堂のコックやスタッフを中庭まで呼んで、大人数での会食をわざわざ開こうというのである。アリエスが返答に困っていると、ベリーの後ろにいた生徒達が大仰に賛成の声を上げた。
「それがいいですわ。アリエスさんの歓迎会も兼ねられますし!」
「さすがベリー様、みんなが幸せで喜べる素晴らしいアイデアを提案なされる!」
「一生ついていきます!」
どうやらアリエスの意志や返答を聞くつもりはないようだった。アリエスはいたずらにトラブルや騒ぎや不満を買いたいわけではない、もしここで空気を読まずに断れば、彼らはアリエスに不満を抱くだろう。
アリエスには実質的に拒否権はなさそうだった。
「……分か……」
仕方なくアリエスが承諾の返事をしようとしたとき、どたどたと廊下を駆けてくる足音が聞こえてきて、がらっとドアが開き、今度はそちらからアリエスの名を呼ぶ声がした。
「アリエスお姉さんっ!」
「シャンディー……⁉」
そこにいたのは中等部の制服に身を包んだシャンディーだった。手には鞄を持っていて、彼女の後ろには同じ中等部の生徒らしい女子が膝に手をついて息を切らしていた。
「どうしてここに……⁉」
「アリエスお姉さんと一緒にお昼ご飯を食べたくて、来ちゃった」
中等部の学舎は高等部の隣に併設されており、来ようと思えば確かに来れる。しかし実際には学年が異なるという心理的な躊躇いがあるため、特に用がなければ足を運ぶ者はそうそういないのだが。
アリエスの手を取っていたベリーが、彼女から手を離してシャンディー達に近付いていく。突然の来訪者を歓迎するような笑顔を浮かべながら。
「あらあら、可愛らしいお客さんねえ、お名前はなんていうのかしら?」
「え……?」
そのベリーの顔を見た瞬間、明るかったシャンディーの顔がたじろいだ。一週間前、道で自分がぶつかってしまい、危うく一大事になりかけたときの相手だと気付いたからだ。
だかベリーのほうは、アリエスのことを忘れていたのと同様に、シャンディーのこともきれいさっぱり忘却しているようだった。
「あ、あの……」
戸惑い、返事につかえてしまうシャンディー……しかしそのとき彼女のそばにいた中等部の女子生徒がうれしそうな声を出した。
「わあ、ベリー様ですよね⁉ 学園の聖女様の! 中等部でも有名ですよ! 会えて感激です!」
「まあ、ワタクシのことを知ってるなんて。嬉しいわ、貴方のお名前はなんていうの?」
「アン=ハギーです! シャンディー、ほら学園の聖女様だよ!」
その女子はシャンディーの友人だったのだろう。彼女の声にシャンディーは、
「……う、うん……」
小さな返事を返すと、改めてベリーを見て自己紹介した。
「シャンディー=シューグです。中等部の二年です。よろしくお願いします」
頭を下げる彼女の名前を聞いて、教室内にいた生徒達が一斉にどよめいた。
「シューグ……⁉」
「シューグってあのシューグ家の……⁉」
「うそ……この学園に通ってたんだ……!」




