59 今度こそ
シャンディーも独り言のようにつぶやきを漏らしていた。
「アリエスお姉さんの学生服姿かぁ、きっと、ううん、絶対に素敵なんだろうなぁ……」
「シャンディー、あまり期待しすぎないでくださいね。わたしとしても恥ずかしくなってしまいますから」
「でもでも、やっぱりアリエスお姉さんの制服姿は素敵に違いないって。メイド服だってばっちり似合ってるんだし」
「あはは……」
ハードルがどんどん上がっていくことに、アリエスは改めて恥ずかしさと緊張感を覚えるのだった。
そうして朝食が終わり、シャンディー達が歯磨きのために洗面所に向かっている間に、アリエスはいったん自室に戻って手早く学生服へと着替える。胸元のリボンを結んで、姿見で変なところがないか確認する。
「…………」
制服自体はちゃんと着れている。だからこそ、不思議な気分になってしまう。
自分は一度死んで、二度目の人生へと転生した。もうこの学生服を着ることは二度とないと、あの学園に通うことは二度とないと思っていた。
それが何の運命の悪戯か、あるいは女神の気紛れか、こうしてまた学生服を着て、転生前と同じ学園に通うことになった。
この世界の時間にして、あれから一年……。
(わたしは……今度は上手くやれるかしら……)
悪役令嬢としてではなく。学園やそこに通うみんなに迷惑をかける存在ではなく。ただの一人の学生として。平穏な学生生活を過ごせるだろうか……。
(いえ……上手くやるのよ……平穏に過ごせるようにするために、出来る限りのことを……)
転生してから、まだ一週間しか経っていない。しかしこの一週間で、アリエスにはなんとなく分かったことがある。
シャンディーやこの屋敷のみんながいま元気に毎日を過ごせているのは、シャンディーが生きているから……あのときにアリエスが溺れていたシャンディーを助けたからだ。
この屋敷にやってきた画商が偽物の絵に気付いて、その絵をドロナや他の人達に売らずに済んだのは、ドロナがアリエスのことを信じて絵の真贋を確かめてくれたからだ。
平穏な生活は、それを求めて行動することで過ごせるようになる。無論、平和な世界においては、たいていの場合は何をせずとも普通に平穏な毎日はやってくるのだろうが。
(わたしは、今度こそ上手くやってみせる……)
姿見に映る自分を見つめながら、アリエスはそう思うのだった。
「アリエスお姉さーん、着替え終わったー?」
ドアの向こうからシャンディーの声が聞こえてくる。歯磨きを終えて、アリエスのことを迎えに来たのだろう。




