52 彼らが目撃したものは
ドロナに言われたとはいえ、いまだに迷っている様子の画商に、今度は夫人が我慢しきれないというように口を開いた。
「彼女がそう言っているのですから、いいからさっさと確かめてちょうだいな。このままではわたくし、気になって夜しか眠れませんわ」
ドロナが呆れたようにつぶやく。
「充分じゃないですか」
「わたくし、お昼寝するのが好きなのよ。それがレプリカだろうが偽造品だろうが、わたくしの損にはなりませんし」
「本音くらい隠しなさいよ。物事を面白おかしく楽しみたいだけの人が」
「楽しまなくちゃ人生損じゃないの」
「はぁ……」
ドロナが溜め息をつくなか、改めてコレートが画商に言う。
「さあ、早く額縁を外して確かめてちょうだいな」
「…………」
画商は最後の確認というように、もう一度ドロナのほうを見て、聞いた。
「……本当によろしいですね?」
「ええ」
ドロナがうなずき、アリエスもごくりと喉を動かしてからうなずく。二人の意志を確認してから、
「……では、取り外しましょう。しばしお待ちください」
画商は額縁の取り外しにかかり始めた。
画商は額縁をひっくり返し、収納魔法具から小さな専用の工具を取り出す。額縁の裏には小さな金具のようなものがあり、それによって絵を内部にきちんとしまいこんでいるようだった。
「では、いきます」
宣言する必要はないのに画商は言う。画商自身が額縁を取り外すという決心を固めるための、儀式的な言葉なのかもしれない。
画商は手にした工具で、額縁裏の金具を一つ一つ外していく。慣れた手つきであり、一つあたり二十秒ほど、錆びて固くなっているものでも三十から四十秒くらいで取り外していった。
やがて全ての金具を外し終わり、画商は額縁を一度表側……絵が見える側にひっくり返した。
「では……取り外します……」
画商が緊張したように言い、アリエスも固唾を飲む。ドロナとメイド長は確信している落ち着いた様子で、コレートは興味津々といった顔つきで成り行きを見守っていた。
そして額縁が取り外され、画商はいったんそれを横に置く。次に絵の外側に被さっているガラス板に手をかける。
アリエスの推測が正しければ、このガラス板の下に、もう一枚の極薄のガラス板があるはずだった。それに偽造されたサインが印字されているはずだった。
果たして、画商が外側のガラス板を取り外したときに、彼らが目撃したものは。
「あぁっ、これは……!」
画商が声を漏らす。アリエスが手を口に当てながら目を見開き、メイド長は逆に目をつむる。ドロナは依然落ち着いた様子で、コレートはきらきらと子供のように目を輝かせていた。
「確かにガラス板がある! サインが印字されているガラス板がある! そしてその下には……!」
画商がサインのガラス板をどけると、当然だがサインの入っていない『白の球形』を模した絵があった。
「偽物だ! これは! 画家の許可を取っていない、後年になって偽造された贋作だ!」
画商が大声を上げた。
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