47 『白の球形』
絵についてはよく分からないドロナは、とりあえず聞くだけ聞いてみた。
「ちなみにこれは本物なんですか?」
「いえ、申し訳ないことにレプリカでございます。しかし本物も厳重に保管しているため、お値段は張りますがそちらをお取り寄せ出来ますよ」
画商はきらきらとした目で言う。ドロナは遠慮の意を示して首を横に振った。
「……いえ、私には過ぎたものだと思いますので……」
「そうですか、それは残念です……ではこちらはどうでしょう!」
最初の絵をしまって、画商は二枚目の絵を取り出した。
「これはウィリアムズが描いた怪作、『たんぽぽ』でございます!」
その絵はまさにたんぽぽの絵だった。一輪のたんぽぽがドアップで描かれている絵だった。
「これは普段私達が道端で目にしているたんぽぽに焦点を合わせた絵でして、普通に遠目から見ているだけでは分からないたんぽぽの詳細まで描いた絵でございます。ただ普通に見ただけでは何とも思わないたんぽぽでも、細かい部分にまで視認することでその美しさを再認識するとともにどことなく漂う不気味さを表現しているのです」
「…………はぁ……」
さっきの絵に関してもよく分からないという顔をしたドロナだが、この絵はさらに分からないという顔をした。アリエスもまた目を丸くしていて、メイド長に至っては瞑想するように目をつむっている。
……普通にただのたんぽぽの絵にしか見えない……。彼らは同時に同じ感想を持った。
「まあ、真っ黄色ねぇ。庭園のカラス避けにちょうど良さそう」
「こ、コレート夫人、こりゃまた一本取られた」
手を合わせてにっこりと言う夫人に、画商はかぶっていた帽子をぽんと叩いた。おそらく夫人にもただのたんぽぽの絵に見えたのだろう。気を取り直したように画商は続けて言う。
「ちなみにこちらもレプリカでございますが、ご希望であれば本物を……」
「……いえ……あまりに本当のたんぽぽにそっくりですので、勘違いした虫が寄ってきても大変ですから……」
「なるほど、確かにそりゃ大変だ。あまりにも凄い名画は小さな昆虫をも惹き付けてしまいますからな」
はたして実際にそんなことがあるのかは分からないが、画商は納得したようだった。
画商は三枚目の絵を取り出す。
「それではこれはどうでしょう? かの前衛芸術家の開祖ピーターが描いた鬼作中の鬼作、我々の常識に一石を投じて美術界に議論の嵐を巻き起こした、『白の球形』でございます!」
「…………」
その絵は、真っ白だった。新品の紙に何も描かずにそのまま見せてきたといわれても反論出来そうにないくらいに、真っ白だった。
しかし完全な白ではなく、よく見ると紙の中心に極めて細い黒線で円が描かれていた。学園の授業で使うコンパスで書くような円を、数倍に大きくしたような、そんな円だ。さらによく見ると、紙の隅には描いた芸術家のサインもあった。




