46 学生時代の悪友
くすくすとコレート夫人が小さな笑いを漏らす。
「ああら、てっきりわたくしもろとも追い出されてしまうかと思っていましたのに」
「貴方は本当に追い出してもいいのですがね。まあ、せっかく紹介していただいた貴方の顔を立てるという意味もあるのですよ」
「それはそれは。さすがシューグ夫人ね、ありがとうございますわ、その広いお心に涙が出そう」
「舌打ちの間違いでしょう?」
「あら、何のことかしら?」
二人の会話にアリエスははらはらしてしまう。しかしアリエスの隣に戻って控えていたメイド長は落ち着いたままで、アリエスがふと横目で見ると、彼女はアリエスの視線に気付いてふっとかすかな、本当にかすかな笑みをこぼした。
まるでドロナとコレートのこのやり取りは、昔から続いている伝統的な行事だとでもいうような笑みだった。そう、まるで学生時代の悪友が遊びに来たとでもいいたげな。
「では、さっそく絵を拝見させてもらいましょうか? 収納魔法か魔法具にしまっているのでしょう?」
「は、はい、ただいま!」
再び顔を上げた画商が、目の前のカップとお菓子を横にどけて、テーブルに四角形のタオルのような布を置く。
その布には様々な図形や文字を織り交ぜた魔法陣が編み込まれていて、画商はそのタオルに両手をつける。
「これは収納魔法具の一種でございます。ここに私の微力な魔力を流し込むと、私が保管している収納空間につながるのです」
画商が説明しながら、魔法陣にかすかな光がまとわれていく。収納魔法具についてはドロナ達も知っていたが、一応説明して、あとは画商なりの格好をつけたかったのだろう。
「まずお目にいただきたいのは、ロープが描いた名作中の名作、『カミングゴーホーム』です」
収納魔法具のなかから縦横数十センチの絵が出てきて、画商はそれを持って見せながら興奮したように説明する。
「これはロープが友人を家に呼んでパーティーしたときに閃いた作品でして、自宅での楽しいひとときが些細ないざこざでお開きとなり、友人が出ていってしまうまでを描いた絵です。この絵には友人との楽しい時間とその後の切ない後悔が対比して描かれた名作なんですよ」
「……はぁ……」
コレート夫人も面白そうに口を挟んでくる。
「まあ、まるでついさっきまでのわたくし達のようですわね。わたくし達は追い出されずに済みましたけど」
「こ、コレート様、それを言われると痛いですなあ、はは……」
画商は自分の額をぺしりと叩く。さっきのいまで最初にこの絵を紹介したのは失敗だったと反省しているのかもしれない。




