40 シャンディー様の特効薬
「……なるほど、だからわたしがシャンディーさんのお世話役に選ばれたのですね。ちょうどその役職の正式な担い手がいなかったから」
「……それもあります。けれど勘違いしてほしくないのは、大変だからアリエスさんに押し付けたわけじゃなくて、この役職が貴方に最適だと判断されたからです」
「……え……」
アリエスは転生前は貴族であり、ある程度は貴族としての生活様式や家事にも慣れていた。しかしメイドとしては素人も同然であり、実際に見習いとして雇われて、それぞれの仕事も教わりながらこなしている状態だ。
「……それってどういう……?」
そんな自分がどうして最適だと思われたのか? アリエスがそのことを聞こうとしたとき、両親と並んで前を歩いていたシャンディーが振り返った。
「メークにアリエスお姉さん、なに話してるの?」
小声で話していたのだが、気付かれてしまったらしい。話の内容までは聞かれていなかったようだが……メークが相変わらず落ち着いた様子で答えた。
「シャンディー様がもう少し早く起きて自分で身支度してくれれば、私達の負担も少なくなるのにと話していたのです」
「むー……それはごめんなさい……明日から気を付けるからぁ……」
「おや。さっき奥様にも言われたときは文句を言い返していたのに、どんな心境の変化ですか?」
「もぉー、メークの意地悪っ」
ぷいっとシャンディーは再び前を向いてしまう。メークはアリエスのほうを見るとウィンクして、小声で言った。
「……アリエスさんはシャンディー様の特効薬ですね」
「……へ」
事情をうまく分かっていないのは、アリエスだけかもしれなかった。
それからシューグ家族は食後の歯磨きや身支度を整えたあと、シューグは会社に、シャンディーは学園へと向かっていった。二人の乗る馬車には執事長が同席し、彼らが屋敷を離れるのをアリエス達は玄関で並んで見送ったのだった。
『いってらっしゃいませ、旦那様、お嬢様』
二人を見送ったあとは、アリエスはみんなとともに屋敷に戻り、メークの指導の元、屋敷内での家事を手伝うことになった。
「さて、それじゃあ家事についても教えていくよ」
「よろしくお願いします」
「といっても、朝のあれをこなせたんなら、あとは簡単なことばかりだから、心配しなくても大丈夫だけどね」
「あはは……」
笑みながら言うメークに、アリエスは苦笑を返す。確かに寝坊したシャンディーの世話は、他の仕事以上に体力も気も使うことだろう。




