36 まるで友人のように
廊下ですれ違うメイドや執事達は、彼らを見かけると微笑みながら挨拶をしてくるのだった。
「おはようございます、シャンディーお嬢様、メークさん、アリエスさん」
「おはよ~」
シャンディーが手を振りながら笑顔で返し、メークとアリエスも会釈を返しながら。
「おはようございます、トラーさん」
「おはようございます」
と挨拶する。相手が離れてからメークがアリエスに言った。
「アリエスさん、挨拶のときに名前を呼ばれた場合は、相手の名前も呼び返したほうがいいですよ」
「あ、はい、すみません、分かりました」
「慣れるまでは教育係の私が相手の名前を先に言うようにしますが、まずはこのお屋敷にいる者の名前を覚えることも優先してください」
「分かりました」
アリエスへの言葉だったのだが、シャンディーがぶーたれるように文句を言う。
「メークは細かいなー。この家ってたくさん人がいるんだから、すぐに全員覚えられるわけないじゃーん」
「だから私が先に名前を言うのですよ。私だけではなく、そのときそばにいる者が名前を言うでしょうし、アリエスさんにアドバイスすることもあるでしょう」
「あー言えばこー言うー」
「名前を覚えることは礼儀です。お嬢様も朝の身支度を自分で出来るようにしてください」
「出来ないんじゃなくて、起きたら勝手に身支度されてただけだもん」
「なおさら直してください」
「むー、休みの日は違うくせにー」
「休日ですから。お嬢様だって学園があるときより早く起きて、さっさと着替えて遊びに行ってしまうでしょう? その情熱の一割でも平日に出してくれれば、私達も楽が出来るのに」
「休みだからだもんー」
二人の会話を聞いて、アリエスはなんだか不思議な気分になった。シャンディーはこの屋敷のお嬢様であり仕える相手なのに、メークはまるで友人のように彼女と接しているのだから。
「やれやれ……と、ダイニングに到着したようです」
「メークってなんかお母さんに似てきてない?」
「お褒めのお言葉、誠に光栄の至りです」
「…………」
肩をすくめるようにしてシャンディーがアリエスを見る。彼女にしてみれば皮肉のつもりだったのに、光栄だと返されてしまったからだろう。
開いていたダイニングのドアの前でメークは一度立ち止まると、控えの姿勢を取る。シャンディーが先に入るようにいったん待機したのであり、シャンディーがダイニングに入るとアリエスとともにあとに続く。
「おはよう、シャンディー」
「おはようございます、シャンディー」
すでにテーブルについていたシューグとドロナが挨拶を言ってくる。平日の朝なのでシューグもちゃんと身支度を整えて新聞を広げており、ドロナも手に開いた文庫本を持っていた。




