32 直属
メイドの朝は早い。朝六時半。朝日が顔を出したころには、もうアリエスはメイド服に着替えて、メイド達が集まる部屋に到着していた。そこでメイド長から各自の出勤の確認をおこなったあと、アリエスの紹介がおこなわれた。
「今日からこちらで働かさせていただくことになりましたアリエスです。よろしくお願いします」
挨拶しながら頭を下げると、メイド長が軽く拍手をして、メイド達もそれに続く。数回程度ではあったが歓迎の意を示す拍手が終わったあと、メイド長が口を開く。
「アリエスさんは見習いメイドとして始めます。教育係はメークさん、お願いします」
「はい」
自分であることを示すように、メイド達の一人が頭を下げる。昨日、遅い朝食時にアリエスに水を注いでくれたメイドだった。頭を上げた彼女はアリエスへとウィンクをした。
それからメイド長による各自の持ち場担当の采配や、注意事項などの説明があってから、彼女達はそれぞれの持ち場へと移動していく。朝食の配膳や屋敷の掃除、洗濯などの分担があるなかで、アリエスが担当することになったのはシャンディーの世話だった。
「朝早くて大変だったでしょ?」
アリエスの教育係として一緒に並んで廊下を歩きながら、メークがアリエスに話しかけてくる。
「学生だったときもいまくらいの時間には起きていましたから……」
「おお、それは頼もしいねえ」
転生前のことだ。悪役令嬢として学園で演じる以上、普段の授業は出席しないか、出席しても途中で授業を抜け出すのが常だった。そのため授業をまともに受けることが出来ず、しかしだからといって家族に見せる成績表のためにも学力を落とすことは出来ない。
必然、アリエスは暇な時間があれば独学で勉強するしかなかった。夜遅くまで起きて、朝早くから起きて、また授業を抜け出して次の悪戯の準備を終わらせたあと……などなど。そして学園内でその勉強姿を誰かに見られるわけにもいかなかった。
その努力の甲斐があってか、学力や成績はなんとか平均を維持することが出来ていた。ベリーが裏で手を回していたのかは分からないが、成績表にアリエスの素行の悪さが書かれることもなかった。
ベリーにしてみれば、せっかく好都合の悪役令嬢に仕立てあげたのに、そんなことで退学させるわけにはいかなかったのだろうが。
「でも無茶はしないようにね。体調が悪かったらちゃんと言うこと」
「はい」
メイドとしてのメークはまさに冷静沈着で『出来る』メイドのイメージだった。しかし素の顔は気さくな女性という感じで、アリエスは仲良くやっていけそうだと安心していた。
「特に、シャンディー様の直属のお世話だし。覚悟しといたほうがいいよ」
「え……?」
それはどういうことかと聞こうとしたとき。
「まあ、いまに分かるから。到着したよ。シャンディー様のお部屋」




