31 アリエスの日々
「……シャンディーさんには、わがままにならないように気を付けないといけませんね」
「ええ。ですからときには厳しくしなければいけません」
話していた二人に、漫画コーナーに行っていたシャンディーが近寄ってくる。その手には一つの紙袋が握られていた。
「お母さんとアリエスお姉さんは買いたいもの決まったの?」
ドロナが答える。
「いいえ、まだです。シャンディーのそれは、漫画ですか?」
「うん。新刊が出てたから。いいでしょ、わたしのおこづかいなんだから」
「はあ、やれやれ……」
さっきはお菓子を買ってほしいとねだっていたが、本当にほしいものはちゃんと自分で買うらしい。
ドロナはまたアリエスのほうへと声をかける。
「すっかり話し込んでしまいましたね。アリエスさんは何か買いたいものはありましたか?」
「そうですね……それじゃあ、このお裁縫の本でも買います」
アリエスは手近にあった裁縫の本を手に取った。初心者から始められるように、基本的な縫い方や短時間で簡単に作れるものの紹介、それから上級的な方法やものなども載せられている本だった。
「アリエスお姉さんって、手作りのぬいぐるみとか好きなの?」
「ええ、そうね」
それもあるが、自分の服が破けてしまったときなどに、自分で直せれば修繕費を安く抑えられるとの考えからだった。
「あと料理の本と……ついでに初級魔法の本も買っておこうかしら」
住み込みのメイドなのでまかないのご飯は出てくるが、自分でも料理が作れればそれに越したことはない。またメイドの仕事として料理も学ぶことになるかもしれないので、その予習も兼ねてだった。もちろん、先の裁縫の本もそれを見越してのことである。
魔法の本に関しては……メイドの仕事内容に、魔法に関連したものは厳密には含まれていない。しかしやはり、多少なりとも使えるようにしておいたほうが、なにかと便利になるかと思ってのことだった。
「はえー、アリエスお姉さんって勉強熱心なんだね」
「シャンディーもアリエスさんを見習って、学術の本がほしくならないですか? そのための本なら私が買ってあげますよ」
「あはは……漫画じゃ駄目?」
「駄目です」
即否定されて、シャンディーは肩を落とす。結局シャンディーは新刊の漫画、アリエスは計三冊の本を買って、その日は帰路についた。
その途中で、一度アリエスのいま住んでいる安アパートに寄って、とりあえず置いておいた女神からの餞別の封筒を持ち帰ることにする。またそのアパートの大家の部屋に行って、住み込みの仕事をすることになったので、アパートのほうに帰ることは少なくなるかもしれないとも一応伝えておいた。
まだアパートの部屋を引き払わなかったのは、もしものことを考えてのことだった。もしも仕事が上手くいかず、途中退職することになった場合、戻る場所がなかったら困るからだ。
とりあえずメイドの仕事が軌道に乗るまでは、こっちのアパートの部屋も残しておいたほうがいい……そう考えて、部屋の解約は先送りにしたのである。多少、家賃の支払いがかさんでしまうが、万が一の事態に帰れる場所は残しておいたほうがよかった。
そうしてアリエス達は屋敷へと戻っていき……翌日からメイドとしてのアリエスの日々が始まったのである。
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