30 見守っている
彼女の気持ちを安心させるように、ドロナは言う。
「とりあえず、いまのところは大丈夫のようです。学園でも友達が出来たようで、毎日楽しそうにしています」
「…………」
ドロナはそう言っているが、アリエスはもしものことを考えてしまう。自分もまた家族に秘密で悪役令嬢を演じていた……それと同じように、シャンディーもドロナやシューグには何かしら秘密にしている可能性があるかもしれないと……。
だがドロナはそんなアリエスの気持ちも見透かしたように、口を開いた。
「実はね、あの学園の教師の何人かや学園長は、主人の知り合いなんですよ」
「え……⁉」
驚くアリエスに。
「だから、もし娘に何かあったらすぐに報告するように、主人は彼らに言いつけているんです。元々、学生がより良い学園生活を送れるようにと色々な面で費用を出資していましたが、娘が入学するにあたってさらにいっそう増額したこともあって……」
「……もしかして、学園自体でシャンディーさんの学園生活が悪くならないように配慮している……?」
ドロナは口元に人差し指を持っていった。
「娘には秘密ですよ」
悪戯っぽくそう言うのだった。
「まあ、配慮という言葉よりは、見守っていると言ったほうが正しいかもしれませんね。基本的にはそれとなく見ているだけで、明らかにトラブルの種や悪意が向けられそうなときだけ対処するといった感じですから」
「それでも充分すぎると思いますけど……」
少なくともシャンディーが学園内でトラブルに巻き込まれたり被害に遭ったりすることを抑えられるのだから。
「ただし勘違いしてほしくないのは、シャンディー自身が原因だったり悪いときには、かばったり隠ぺいするようなことはしないようにも言ってあることです。娘の責任なら、娘に問わせたいですから」
「……甘やかすつもりはない、ということですね」
「うーん、そういうのというよりは、いまのうちに正しさと悪さをきちんと認識してほしいということに近いですね。大人になると、正義と悪の二元論では計れないことのほうが多くなってきますから」
正義と悪の二元論で計れない……難しい話なため、アリエスにはいまいちどのようなことなのか把握出来なかった。しかし少なくとも分かることは、学園内でのシャンディーの安全は保障されているということだ。
だからこそ、彼女はいまも天真爛漫でいられるのかもしれない。いずれ成長するにつれて、その純真さに変化が訪れるかもしれないとしても。




