3 女神様
気が付いたとき、アリエスは暗闇の場所にいた。
一筋の光もない、あまりにも真っ暗な場所だったので、最初はまだ目を閉じているのかとも錯覚したほどだった。しかし改めてまぶたを開閉してみて、やはり目の前の空間には一縷の光も見当たらない。
「……もしかして目が見えなくなってしまったのかしら……?」
思わずつぶやく。気を取り戻す前の最後の記憶は、馬車に轢ねられ、全身を強打し、激痛を感じながらも少女が無事なことを確かめて安堵したことだ。
そのあとで意識は闇に閉ざされてしまった。気を失う前に思ったことは、ああ自分は死ぬんだな、という事実を事実のままに受け入れる気持ちだった。
「……わたしは助かったのでしょうか……? 誰か、そこにいませんか……?」
もしかしたら自分は失明してしまったけれど助かって、ここはどこかの病院の一室なのかもしれない。そう思って暗闇のなかへと声をかけてみたのだが……。
「いいえ。あなたは真実、その短い生涯に幕を閉じましたよ」
「……っ⁉」
女性の綺麗な声がして、アリエスは驚く。声がしたことそのものではなく、その声が言った言葉がアリエスにとって衝撃的だったからだ。
「あ、あの、それはどういう……?」
詳しい説明を聞こうと尋ねたとき、それまで真っ暗だった視界が光に満たされていく。あまりの眩しさに思わず目を閉じ、それから眩しさに目を慣らすように恐る恐る目を開けていくと、上体を起こしているアリエスの前に一人の女性がいた。
とても美しい女性だった。いままでに見たことがないような、本当に同じ人間かと思ってしまうような、非の打ちどころがないくらい綺麗で美しかった。
「……女神様……」
だからか、アリエスは知らず知らずにつぶやいていた。相手が女神だと知っていたからではなく、とても美しい人を見たときに発する、相手を称賛し感嘆する意味合いのつぶやきだった。
「あら……まだ自己紹介していないのに気付くなんて、思っていた以上に聡明な人なんですね」
「……⁉」
アリエスのつぶやきに、しかしその女性は意外にも肯定の言葉を紡いだのだ。彼女の言葉になおも驚いているアリエスに、彼女は続けて言う。
「そう、私は貴女達人間でいうところの女神と呼ばれる存在です。人間界で死んでしまった貴女を、もう一度人生を歩ませてあげようと思って、こうしてここに呼び寄せたのです」
「それって……生まれ変わるってことですか?」
「早い話がそういうことです」
女神が微笑む。アリエスの理解が早くて助かると思っているのかもしれない。




