28 書店
「二人とも、書店に到着したようです。なかに入りましょうか」
アリエスがそこまで考えていたとき、ドロナが声をかけてきた。前を見ると、午後の日差しのなかに確かに書店の看板が目に入った。
「シャンディー、お店のなかでは静かにしているのですよ」
「はい、お母さん」
「あら、珍しく素直ですね。いつもはもっと元気があり余っているのに」
「…………」
「…………、行きましょうか」
ドロナに促されて、アリエスとシャンディーは書店のなかへと足を踏み入れる。店内にはいくつもの書棚が並び、数えきれない本が背表紙を向けて出迎えてくれた。
アリエスは本を読むのが好きだった。自分の書斎は持っていなかったが、子供のころは父親の書斎に入って、そこに並べてある本を眺めたり、ときには手に取って難しくて意味が分からないなりに文章を読み進めていたりした。
成長して学生になると、学業の合間に図書室に行って、気になった本や好きな作家の小説、あるいは参考書や問題集などを借りて読んだものだった。しかし、それも悪役令嬢を演じるようになるまでではあったが……。
この書店のなかには、そのころ感じていた本の匂いが漂っていて、そこはかとなく懐かしさすら覚えてしまうくらいだった。
「お母さん、わたし漫画コーナーに行ってくるね」
「シャンディー、あなたもう中等部なんだから、漫画じゃなくて小説を読んだらどうですか?」
「漫画に年齢は関係ないんだよ、お母さん」
そう言ってシャンディーは漫画が置かれている書棚へと向かっていく。彼女の背中を見送りながら。
「やれやれ、最近は言い返すようになってきたわね……」
ドロナは息をつくのだった。二人で書棚を見て回りながら、アリエスはドロナに言葉をかける。
「シャンディーさんは中等部なんですね」
「ええ。去年入学して、いまは二年になりますね。失礼になりますが、そういえばまだアリエスさんの年齢を伺っていませんでしたね」
「あ、えっと……」
「やはり直接答えるのが嫌なら、もし学園に通っていた場合の年次でも構いませんよ」
「えっと、その……」
そういえば、転生した場合の年齢はどうなるのかとアリエスは疑問に思う。アリエスの学年は高等部の一年生だったが、いまはそれから一年経っているから二年生ということになるのか?
それとも肉体的には成長していない扱いで、一年生のままだと答えたほうが良いのか? 女神に聞けば分かるのかもしれないが、その手段もない。
「高等部の二年生、くらいになります……」
とりあえず、とっさに口から出たのはその言葉だった。なぜそう言ってしまったのか……直前にベリーと再会し、学園の二年生に進級した彼女を見て、何かしら触発されたのかもしれなかった。




