27 相変わらず
「ドロナさん、ありがとうございます、あの場でわたしを引き止めてくれて。もしわたしが食ってかかっていたら、どうなっていたことか……」
「……いいえ。お礼を言うのは私のほうかもしれません」
「え……?」
アリエスの頭に疑問符が浮かぶ。
「実はあのとき、私も頭にきてしまっていたのです。正直に白状すれば、アリエスさんが彼らの前に出なければ、私こそ彼らの頬を叩いていたかもしれません。大切な娘を愚弄するような言葉をのたまったのですから」
「……ドロナさん……」「……お母さん……」
でも、とドロナは続ける。
「アリエスさんが一足先に彼らの前に出てくれたおかげで、私は我に返ることが出来たのです。そしていま私達がそのような愚行をおかせば、それこそ私達自身の立場をさらに危うくしてしまうと気付けたのです。いまの私達が無事に嵐をやり過ごせたのは、貴方のおかげなのですよ、アリエスさん」
「「…………」」
「だから、本当にありがとうございます」
ドロナは頭を下げる。アリエスは慌てて。
「頭を上げてください……っ。お礼を言うべきなのはわたしのほうです……っ。本当にありがとうございます……っ」
頭を上げるドロナに、今度はアリエスのほうが頭を下げたのだった。
そうして三人は商店街を再び歩いていく。先の一事の反省からか、シャンディーはおとなしくなって二人のそばをついてきていた。
ドロナもまた先ほどよりは口数が少なくなっていた。やはり先のトラブルのことを少なからず引きずっていて、いろいろと考えてしまっているのかもしれない。
それはアリエスも同じであり、彼女は久しぶりに見たベリーのことについて思案を巡らせていた。ベリーは間近でアリエスと対面したのにもかかわらず、彼女に微塵も気付いていなかった。
もし気付いていたのなら、死者に出会ったように驚愕の表情をして腰を抜かしていただろう。実際、アリエスは一度死んでいるのだから。
しかし気付いていなかった。すなわち、ここにも女神の修正力がおよんでいることになる。ベリーはかつて自分が利用した人間がいて、その者が死んだことは知っているだろうが、その者がイコール『アリエス』だということが分からないのである。
(ベリーさん……相変わらずのようでしたね……)
思案はベリー自身の様子にも移っていく。アリエスが一度死んでからすでに一年近くが経過しているが、ベリーは相変わらず聖女としてあの学園の人気者となっているようだ。
しかし……ベリー自身は聖女としての建前があるから衆人環視の前で乱雑な態度を取らないとしても、彼女の取り巻きは違っていた。彼らはベリーに心酔するあまり、彼女以外の者への配慮が欠けているように見えた。
あのままでは、いずれ何かしらのトラブルが起きてしまうかもしれないだろう……。




