26 堪える
歩み出ようとしていた足を引き止め、アリエスはその身を後ろへと退かせた。ドロナと同じように、彼らへと頭を下げた。
「……この度はお嬢様が失礼を致しました。誠に申し訳ございません……」
それが二人を守ることだと思って。この状況を悪化させないためだと信じて。
「なんだお前メイドかよ!」
「きっとお金のない没落一歩手前の貴族なのね! 社交パーティーでも見たことないし! 可哀想!」
ぐっと堪える。頭を下げ続ける。
そんな彼女達になおも文句を言おうとする取り巻きに、ベリーが声をかけた。
「皆さん、そのくらいにしてあげてください。彼らも悪気はなかったようですし、私も怪我や汚れはありませんから」
『しかしベリー様』
「ね、お願いですから」
ベリーは彼らに満面の笑顔を向ける。その笑顔に、彼らは落雷に打たれたようにハッとして、次の瞬間には幸福そうに顔を綻ばせるのだった。
「さすがベリー様。なんという美しいお慈悲の心をお持ちなんだ」
「さすが学園史上最高の聖女様ね。ワタクシ、一生ついていきますわ」
心酔しきった顔と声音を表す彼ら。そんな彼らを見てベリーは満足した表情を垣間見せると、シャンディーへ顔を向けて、彼らにしたのと同じように笑顔を向ける。
「お嬢さん、貴方にも怪我がないようで良かったわ。これからはお気を付けてくださいね」
「…………はい……申し訳ありませんでした……」
「お利口さんね」
ベリーは取り巻きへと明るい声をかける。
「それでは皆さん、行きましょうか。とっても美味しいお料理屋さんがあるんですよ」
「はい! 行きましょうベリー様!」
「お料理の解説ならワタクシに任せてください! お料理は得意なんです!」
「おい、ベリー様のご機嫌を独り占めしようとするなよ! 俺だって解説くらい出来るぞ!」
「なによ!」
「はいはい皆さん、喧嘩は駄目ですよ。みんな仲良く行きましょうね」
『はいベリー様!』
そうして彼らはアリエス達の横を通りすぎて、道を向こうへと歩いていくのだった。
アリエスが顔を上げて振り返ると、彼らはもうアリエス達のことなど完全にわすれたように談笑をしていた。アハハという笑い声も響いてくる。
「……ごめんなさい、お母さん、わたしのせいで……」
「……反省したなら、今後はちゃんと前や周りもよく見るのよ」
「……はい……」
シャンディーはアリエスにも謝りの言葉を紡ぐ。
「……アリエスお姉さんもごめんなさい……これから気を付けるから……」
「……顔を上げてください、シャンディー」
顔を上げるシャンディーの肩に、アリエスはそっと手を置いて。
「シャンディーが無事で本当に良かった。もちろん、相手方にも怪我がなくて……」
「……アリエスお姉さん……」
もしわずかでも怪我をさせてしまっていたら、あのベリーのことだ、何を要求してくるか分かったものではなかった。無論、それは文句を言おうとしたアリエスを引き止めてくれたドロナのおかげでもある。




