22 約一年
「……三人とも、べつに構いませんよ、思い出せないのなら仕方ありませんし。そのうち、なにかのきっかけで思い出すでしょう。そのとき教えていただければ」
「う、うむ、アリエスさんがそう言うのなら」
いまだに疑問符を浮かべながらも、シューグが返事をする。ドロナとシャンディーも不思議そうな顔つきだったが、アリエスがそう言うのならと、とりあえずはそうなった。
そしていまのやり取りで、アリエスにはだいたいのこと……女神の修正の力について知ることが出来た。女神の力は絶対で、おそらく彼らが転生前のアリエスに関することを思い出すことは、まずないだろう。
またあの事故から、自分が死んでから約一年が経過していることも分かった。おそらくその学園にはいまも当時の同級生達が通っているだろうが、やはり彼らもアリエスのことを忘れているのだろう。
道ばたで偶然再会したとしても、彼女に気付くことはない程度に。
「…………」
恩人の名前を思い出せなかったからなのか、シューグを始め、ドロナとシャンディーに気まずい沈黙が訪れる。料理はまだ残っていたが、それぞれ考えごとをしているように食が進んでいなかった。
それはアリエスも同じだった。おそらく女神の力は彼女の家族にまで影響を与えていて、彼女が転生前の自宅を訪れたとしても、自分だと分かってもらえないだろう、と。
いや、女神は記録にも修正を施すと言っていた。あるいはもしかしたら、転生前の自分が以前の家族の子供として生まれていたという、その事実までなかったことになっている可能性すらあるだろう。
実際に女神の修正力が、どの程度の範囲にまで及んでいるのかは、調べてみないと分からないことではあるが。
「……アリエスさん……」
しばらくの沈黙の時間が流れたのち、シューグがアリエスへと言葉をかける。
「妻から、アリエスさんは天涯孤独の身の上だと聞いたが……学園には通っているのかい?」
「いえ、いまは通っていません。自分にも出来る新しい仕事を探している最中でして……」
「そうですか……」
そう、シャンディーを助けたことやシューグ家との団らんで忘れそうになっていたが、アリエスはいま仕事探しの最中なのだ。この料理を食べて、シューグ家を辞したあとには、街の職業紹介所に行って、自分に出来る仕事を探さなければいけないのだ。
ほんの数時間という短い間だったが、彼らとの団らんはとても楽しかった。可能であれば、ずっとこの時間が続けばいいとも思ったが……そうもいかない。
別れのときは着実に近付いているのだ。




