20 ……きれい……
「もー、これだからお母さんはー」
「まったくだ。これが若者に流行っているツンデレというやつなのかねぇ」
「二人ともうるさいですよ!」
声を上げるドロナと、いつものことであるかのように慣れた様子で料理を食べているシューグとシャンディー。
彼らの様子を見て、アリエスは在りし日の自分の家族を思い出していた。シューグ家とは雰囲気は多少異なるものの、アリエスの家族もまた仲の良い家族だった。
無論、ときには喧嘩をすることもある。しかしその度に相手の言い分を聞き、価値観を認め、上手い具合に折り合いをつけたりして、仲直りをしてきた。
アリエスは、いま目の前にある円満な家庭を見て、
(いいな……)
素直にそう思った。
嫉妬したわけでも、うらやましく思ったわけでもない。彼らは素晴らしい家族であり、だからこそこの家族関係が末長く、良好に続いてほしい。
そう思ったのだ。
それは望みや願いにも近い思いだった。
「どうしたの? アリエスお姉さん? やっぱりお母さんのことで文句があるの? 言いにくいならわたしが言ってあげようか?」
「ううん、違うの、そうじゃなくて」
「?」
疑問符を浮かべるシャンディーに、アリエスは女神のように優しい微笑みを浮かべる。
「あなたの家族はとても素晴らしいなって。シューグさんもドロナさんも、もちろんシャンディーさん自身も、それにメイドや執事やコックや庭師やここにいるみんなが」
『…………』
アリエスの言葉に、その場にいた全員が彼女を見つめた。その微笑みを見つめた。彼女の言葉にも微笑みにも、いっさいの嘘偽りや欺瞞が含まれていないことを感じ取った。
「……きれい……」
シャンディーが思わず声を漏らし、
「……アリエスさんこそ、非常に素晴らしい女性だな……」
「……ええ……」
シューグとドロナもつぶやきを漏らす。メイドや執事達も感嘆に似た顔つきや視線になっていた。
「あー、おほん……」
我に返るようにシューグが咳をして、シャンディーへと声をかける。
「シャンディー、とにかくこれからは本当に気を付けなければいけないぞ。今日は偶然アリエスさんがいたから良かったものの、もしいなければ今度こそ本当に死んでいたかもしれないのだから」
「……はい……ごめんなさい……」
シャンディーが反省した声を出す。屋敷に戻ってきてから元気に見えた彼女だったが、やはり死にかけたことは怖く、心底から反省しているのだ。
それはそれとして……しかしアリエスには、いまのシューグの言葉にわずかな引っ掛かりを覚えた。いまシューグは『今度こそ』と言った。
それはつまり、以前にも同じようなことがあったのだということなのか。




