17 ……なんてかたがた……
内心かなり戸惑い、態度にもその様子が露わになってしまったアリエスは、とにかく頭を下げる彼らに言う。
「あ、頭を上げてください! そもそも、なんで頭を下げるのですか⁉」
「? なんでも何も、大事な娘の命を救っていただいたのだから、頭を下げて感謝の意を示すのは当たり前では?」
ようやくのことで頭を上げた彼らを代表して、シューグが口を開く。彼のほうこそ、アリエスの言っている意味がまるで分からないという顔つきだった。
シューグの返答に、アリエスは困惑と動揺したまま応じる。
「だ、だって、貴族は体面や見栄えや家柄を重んじるから、誰かに頭を下げることなんて、それも人前で下げることなんて……しかも当主だけじゃなくて家の者が揃って……」
「わっはっはっ、なんだ、そのことでしたか」
「????」
シューグは鷹揚に笑うと、さも何でもないことのように答えるのだ。
「確かに、他の普通の貴族ならそうかもしれないが、私達は元々は一般人、つまり庶民の出なのでね。貴族の方々の常識が分からずに、ついうっかりと混乱や動揺させてしまったり、ときには失笑や嘲笑されてしまうこともあります」
「……っ」
それはそうだろうとアリエスは思う。他人に頭を下げるなど、他の貴族からすれば考えにも及ばないことで、それこそ目上の人間から命令でもされなければやらないだろう。
それを、娘を助けてもらったからといって、お礼の言葉だけならまだしも、自主的に頭を下げるなど……貴族としての立ち振舞いを知っているアリエスからしてみれば、突拍子もないことだった。
「だが私は、いや私だけでなくここにいる者達は、そうすることが正しいと思って、やったのです。たとえ貴族としては非常識だとしても、命を助けていただいたのならば誠意を込めて感謝を述べる。頭を下げることなど造作もありません」
「……っ……⁉」
アリエスを真面目な顔で見つめて、シューグは言う。彼の言葉に、妻のドロナも、女性コックもメイドも執事も、その場にいる者達が確信を持ってうなずいていた。
たとえ誰に何と言われようと、非常識だと謗られようと、自分が正しいと思ったことをおこなう。そこに何の嘘偽りもないと、自分の心に誇っている者達の顔つきだった。
「……なんてかたがた……」
どっと疲れが出たように、アリエスは自分の席に腰を落としてしまう。自分がいままで抱いていた貴族のイメージを、こうも容易く壊してしまう人達がいるなんてと、感心と呆然が入り混じった気持ちになっていた。




