117 『二度目の転生を拒んだ者』
アリエスはいままでの人生を、日々を思い出しながら。
「最初の転生のときは、わたしには想像も出来ていなかったのです。わたしのことを誰一人覚えていない、知らない世界で生きることが、こんなにも孤独で寂しいことだなんて」
自分は知っている人間なのに、相手は自分を覚えていない。ゼロからのやり直し。それが親しくて大切な相手であるほど、孤独感や寂しさはいっそう強くなる。
「そして記憶を取り戻したシャンディーを見て、思い知りもしました。シャンディーは記憶を思い出せてうれしいと言っていましたが、そのシャンディーにわたしはそれまで、記憶を思い出したくても思い出せない辛さを味わわせてしまっていたのだと。シャンディーには、もう二度とそんな思いはさせたくないんです」
『…………』
「転生したいというわたしのエゴで、みんなに辛い思いをさせたくないんです」
それはアリエスの心からの思いだった。みんなの記憶を消して、思い出せない辛さを体験させるくらいなら、転生なんか出来なくてもいい。そんな転生に意味なんかない、と。
アリエスの確固たる意志を聞いて、女神は。
『……いままでいろいろな人間を見てきましたが、貴方もまた珍しいタイプの人間でしたか』
「え……?」
独り言のように、かつてあったときを思い出すように、女神は言葉を紡ぐ。
『ある者は、奇跡は自分で起こすものだと豪語しました。またある者は、全てを知っても意味はないと達観しました。そしてある者は、自分はあくまで人間だと主張しました。他にもいろいろな者達がいました』
「それって……?」
アリエスには誰のことなのか分からない、いつのことなのかも分からない。あるいは、かつて女神が出会った、目撃した人物のことなのだろうか? と。
『私も意地悪しないで種明かししましょう。ここは死後の世界ではありません。貴方は二度目の死を迎えてはいません』
「え……?」
『私は貴方を試しただけです。貴方がもしまた転生したいと言ったら、その通りに転生させていました。貴方に関する全ての記録と記憶を、今度こそ完全に抹消して』
「…………」
『幻滅したでしょう。私はそんな意地悪な女神なのですよ』
「……そんなことは……」
『お喋りはここまでにしましょうか。貴方を待っている者がいますから』
アリエスの身体が光に包まれていく。いや、アリエスが肉体だと思っていただけで、それはあるいは精神体や魂のようなものだったのかもしれない。
消えゆくアリエスに、女神は最後にウィンクをした。
『さようなら、『二度目の転生を拒んだ者』。いつの日か、貴方が寿命を迎えたときにまた会いましょう』
「」
アリエスが言葉を発する前に、彼女の姿は完全に光に包まれて、消えていった。
空白の世界の空を見上げるようにして、女神がひとりつぶやく。
『懐かしいですね。『奇跡の代行者』、『情報の観測者』、『無能の人間体』、そして他の者達……彼らはいまどうしているでしょうか?』
あとで彼らの様子でも見てみましょうかと、女神はとりとめもなく思うのだった。
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