11 ドロナでいいですよ
そうして母親に案内されて、アリエスと少女は大きな玄関を通って広い邸内へと入っていく。魔法具の大きなシャンデリアや数々の調度品、動物の剥製や芸術的な絵画や彫刻など、様々な物がアリエス達を出迎えてくれた。
「すごい数の芸術品ですね。印象的や写実的、前衛的なものまで、種類を問わずたくさんあるなんて……」
「あら、アリエスさんは芸術に詳しいのですか?」
「あ、いえ、以前本で読んだことがあるだけで……」
転生前の家に、父がコレクションしていた芸術品が数多くあって、そのおかげで少しばかり知っているだけ……とは言えなかった。
「見た感じ、学生さんだものね、教科書とかで読んだことがあるのでしょう」
「あはは……」
「ここに並んでいるこれらは、夫が買ってきたものなんですよ。レプリカだから安いし、子供には早い時期から芸術に触れさせて感受性を豊かにしたほうがいいということで」
「そうでしたか」
アリエスと母親が話していると、少女が不意に駆け出して、近くにあった彫刻のそばでその彫刻と同じポーズを取る。
「見て見てー、お皿を取ったどー」
「……それは円盤を投げている様子ですよ、シャンディー」
「え、そうなのー?」
「……はあ……」
母親が溜め息を吐く。アリエスも苦笑していた。芸術的な感性を磨くよりも、子供的な遊び心の玩具になっているようだった。
「そういえば、シャンディーさんのお母様……」
「ああ、自己紹介がまだでしたね、私はドロナ。ドロナでいいですよ」
「……ドロナ様、わたしのせいで床が濡れてしまっていますけれど、よろしいのですか?」
「でなければ、お風呂場まで行けないでしょう? まさか玄関前で着替えるわけにもいきませんし」
「それはそうですが……」
「ご心配なさらずとも、家は汚れるもの、汚れたら綺麗にすればいいだけの話です。……掃除をするのは、いまはメイドや執事達ですが……」
「はあ……」
アリエスは納得したようなしていないような、曖昧な声を漏らす。シャンディーはというと別の彫刻の前に行って、その彫刻と同じ腕を伸ばして人差し指を前に示すポーズをしていた。
「お風呂場まで、れっつごー」
「「…………」」
アリエスは呆気に取られた顔を、母親はまたも溜め息を吐いていた。
それからアリエス達は風呂場に到着し、二人で入るには広すぎる風呂に入る。ほとんど温水プールのようであり、シャンディーに至っては本当に泳いでいた。
「アリエスお姉さんも泳ごうよー」
「……さっき溺れたばかりなのに、元気ね……」
「それはそれ、これはこれー」




