108 本音
アリエスは何も答えない。ただ心で思っていた。
……わたしって、性格悪いわね……。
そんな自虐を。
ベリーが取り巻き達へと向く。激怒を隠そうともしないで、怒鳴り散らす。
「ナニしてんのよアンタ達ッ! ワタクシの味方なんでしょッ! 早くこいつを粛清しなさいよッ!」
『え……?』
「こいつは決闘を侮辱したのよッ! ワタクシを侮辱したのよッ! 勝てたくせにナメプして不必要に長引かせてワタクシを見下してんのよッ! こんな戦いはもう無駄よッ! 無効よッ!」
『…………ッ……⁉』
しかし取り巻き達は動かない。否、動けないでいる。ベリーのいまの言葉、自分達に向けられた怒号に、戸惑い、彼女は本当に自分達が知っているベリーと同一人物なのかと思ってしまう。
そんな彼らに、ベリーのイライラはさらに募っていく。どうして誰もワタクシの言うことを聞かないの、と。
「早くしなさいよッ! 誰でもいいから早くこいつを殺してワタクシを助けなさいよッ! アンタ達ワタクシの信者なんでしょッ! いままでずっと良い目を見させてきたでしょうがッ! いままでずっと高い金払って美味しいものや高級なものをあげてきたでしょうがッ! いまこそその恩を返しなさいよッ! ワタクシのためにその身を捧げるのがアンタ達の役目でしょうがッ! それくらいしか役に立たないでしょうがッ!」
『……ッ……』
それはベリーの本音だった。それこそがベリーが彼らに対して持っていた考えだった。
そしてそのとき、取り巻き達から声が上がった。
「ふ、ふざけるな! なんで俺がアンタの代わりに人を殺さなくちゃならないんだ!」
「そ、そうよそうよ! だいたいパーティーもプレゼントも、全部アンタが勝手に寄越してきたんじゃないの!」
「だいたいまだ決闘は終わってないわよ! そんなことが言えるんなら早く立って、自分でソイツを殺しなさいよ!」
また取り巻き達のなかの数人が、フラフラとベリーの元へと歩いて行こうとする。けれど近くにいた者達が彼らの肩や手を取って、その歩みを制止させる。
「おい待て行くなって」
「でも……私はベリー様のお役に立ってみせるって……高い服だって買っていただいちゃったし……」
「だからってアンタが人殺しする必要なんかねえだろ。あんな恩着せがましい奴の言うことなんていちいち気にしてんじゃねえよ」
「…………」
他の者達も同じように説得されて、結局その歩みを止めてベリーの元まで向かうことはなかった。またいままで少なからずベリーに対して鬱憤が溜まっていたのか、このときとばかりに取り巻き達から続々と文句が出てきていた。
「だいたいプレゼントだってただ高いだけで、全然いらないものばっかりだったじゃない!」
「パーティーだってお前が金を出すからついていっただけだ! 毎回毎回飽きもしないで同じ自慢話ばっかしてんじゃねえよ!」
「それに何よ学園の聖女様って! 名家の令嬢だからそう呼んでただけで、そうじゃなかったらただ自称してるだけの痛い奴じゃない!」
彼らのその言葉の羅列を聞いて、ピナは思わずつぶやいていた。彼らには聞こえないように、とても小さな声で。
「……酷いわね……」
メークも小さくうなずく。
「……ええ……」
取り巻き達の言葉は、シャンディーにはとても聞かせたくはないものだった。しかしもう時すでに遅く、いまさら仕方のないことではあるが。
またメークは口には出さなかったが、内心で彼らのことを、
(……みにくい、ですね……)
とも思っていた。お互いがお互いを利用するだけ利用し、必要なくなったり都合が悪くなれば切り捨てる。金銭や物品や損得勘定で成り立った関係性。
取り繕った表層……化けの皮が剥がれれば、所詮はこの程度のものかと。しかし半ば仕方ないのかもとも思う、貴族の社交パーティーではこのような者達がわんさとそこら中にいて、自分の利益になるような者とのコネクションを作ろうと虎視眈々としているのだ。
取り巻き達もまた、その血を少なからず継いでいる。それだけのことだった。




