105 予言
「右手に魔力を集中させて弾いたみたいだけど、同じことはもう出来ないでしょ。さすがにちょっと長引いて飽きてきたし、次で終わらせてあげるわよ」
息を切らした状態でアリエスはベリーの言葉を聞いていた。いまの落雷の一撃は、魔力を集中させた右手でもようやく防御出来たほどに強力だった。いまだに手が痺れていて、ベリーに何か言い返す余裕がないくらいに。
ベリーが剣を持つ手を前に出して、構える。縦向きの正眼ではなく、剣身を横にした構え。その剣にいままで以上の魔力が込められていき、紅蓮の色の魔法陣が浮かび上がる。
「やっぱりトドメの一撃はこれよね。魔法の中でも最強の威力を誇る炎魔法、その中でもさらに使い手が限られる高位魔法、『ライクアスルト』!」
ベリーが持つ剣身が紅蓮の炎に飲み込まれていく。それは先ほどの炎をまとわせた魔法よりもさらに強大であり、凶悪であり、剣に炎をまとわせたというよりも剣身自体が一つの火柱となっているかのようだった。
「……その魔法は……っ!」
ようやくのことでアリエスは口を開くことが出来た。しかしその顔は驚きの色に染まっていて、先の落雷魔法よりも余裕がないことが見て取れた。
『ライクアスルト』。それは神話に登場する炎の巨人が持っていたとされている武器を模した魔法であり、触れたもの全てを業火によって灰塵に帰す高位炎魔法である。
その範囲は人間界の物質に留まらず、魔界の物体や魔力、低位の魔法ですら焼き尽くすことが出来る。生半可な防御は意味を成さず、空気すら焼き尽くすためぎりぎりや近距離での回避も結局焼かれて終わってしまう。
「貴方は死ぬのよ。ワタクシに焼かれて、跡形もなくね」
「…………っ」
ベリーが笑む。その口端は釣り上がり、先ほど見せた悪魔のような笑みになる。勝利を確信した、歪んだ笑みだった。
あまりにも高温なためか、ベリーが持つ剣が白く発光し始める。剣を鍛冶する際に、金属が高熱によって白く光って見えるように。
「最期に遺言だけ聞いておこうかしら? 何か言い残したいことはある?」
最後の一撃の前にそう聞いたのは、ベリーの余裕の表れだった。『ライクアスルト』で斬れないものはない、焼き尽くせないものはない。絶対の自信があった。
「……その魔法でわたしを攻撃するのは、やめておいたほうがいいです。そのとき、あなたはわたしにとてつもない屈辱感を味わうことになります」
「……はあ?」
だから、ベリーはアリエスの言葉を聞いて、思わず呆気に取られてしまう。次いで、プッと笑いが吹き出した。
「あはは! 何それ! 遠回しな命乞い? それとも負け惜しみかしら? そんなこと言うくらいなら負けを認めたら? いまならまだ許してあげるわよ」
それはすなわち、ベリーが取り巻き達に言っていたように、アリエス自身が真の悪役だと認めること。自分を信じてくれているシャンディー達を裏切ることに相違ない。
「……それは出来ません……これは忠告であるとともに予言です、その魔法でわたしを攻撃したとき、ベリーさんは激昂して全てを失うことになります」
「やれやれ、お馬鹿さんは本当にお馬鹿さんなのねぇ。そんなことあるわけないじゃない。あるのは、貴方が灰も残らず焼き尽くされて、決闘に勝利したワタクシが称賛を浴びる未来だけよ」
「…………」
アリエスは口を閉ざす。いまの彼女には何を言っても無駄だと悟ったから。いまの彼女には、行動と結果で示すしかないと思ったから。
何よりも、これから自分がしようとしていることは、それまで以上に全神経を使った集中力が要求されるのだ。片手間では出来ないし、失敗すれば本当に自分は灰も残らず、死ぬ。




