第12話 悲劇
———【1年前】
夫婦になってから5年の月日が流れた。結婚して間もない頃はダヴィが魔法使いの子と結婚をした…と話題が持ち切りだったが毎日笑顔を絶やさず仲睦まじい姿に周囲の人々の心が動く。
次第に2人は相思相愛で仲の良い夫婦だと冒険者ギルド、街などに伝わり皆が祝福をした。
空を見上げれば三日月が出てる夜の0時ごろ。スカーレットは家事を終わらせると2人は手を繋ぎダンジョンへと向かっていた。
ダヴィ 「スカーレット。少しゆっくりしてもいいんだぞ?」
スカーレット 「大丈夫!ダヴィのために少しでも尽くしたいの」
にこやかに微笑むスカーレットだがダヴィは浮かない顔をする。
ダヴィ (俺がもっと強かったらスカーレットを楽にしてあげれるのに…。可愛い服だって着たいだろうし。スカーレットは美人だから何を着ても似合うだろうなぁ)
ダヴィは考え込むと肩を落としため息をつく。
スカーレット 「おやおや?ダヴィさん。何か考え事をしていますね?」
ダヴィ 「あぁ、ちょっと…な」
不愛想な返事にスカーレットの目が鋭くなる。
スカーレット 「ふ~ん。へ~。愛人?」
ダヴィ 「な、な、な、な、何をいってるんだっ!!」
あからさまに動揺するダヴィにスカーレットは眉を寄せる。
スカーレット 「この前、たまたま食材の買い物をしてたら知らない女性と話していたの見かけたんだけどなぁ?幻?」
ダヴィ 「あれはハンカチを落としたから拾ってあげただけだ!」
スカーレット 「なーにムキになってんの?あやし~~」
頬を膨らませるスカーレットにダヴィはため息をつく。
ダヴィ 「はぁ…。こんな事、カッコ悪いから言いたくないんだけどな。俺がもっと強ければスカーレットをもっと楽にしてあげられるし、可愛い服だって沢山買ってあげられるのになぁ~って考えていたんだ。甲斐性なしの旦那でごめんな…」
スカーレットは吹き出すと腹を抱え大笑いする。
スカーレット 「あはははは!!な~んだ!そんな事か!」
ダヴィ 「俺にとっては大事なことだ…。大切な妻なんだから幸せにしたいって思うだろ…」
スカーレットは笑い終えると涙を拭う。
スカーレット 「ダヴィ。あたしわね、ダヴィがいれば何も望まないよ。こうやって好きな人といられるだけで幸せなの。可愛い服よりあたしはもう欲しい物を既に手に入れたんだから。ね?旦那様」
下から顔を覗くスカーレットに対しダヴィは目を背け顔を赤らめる。
ダヴィ 「あ、ありがとう…」
スカーレット 「ふふっ。照れてるダヴィも可愛いね」
ダヴィ 「36歳のおっさんをからかうなよ…」
スカーレット 「え~~。あたしにとってダヴィはいつまでも白馬の王子様だけどなぁ~?」
甘い会話をしながら2人はダンジョンの中へ入る。階段を下り地下25階層に辿り着くと大きな斧を握りしめるミノタウロスが2人を襲う。
ダヴィ 「スカーレット!下がっていろ!援護を頼む!」
スカーレット 「うん!分かった!」
ダヴィは剣を構えるミノタウロスの元へ走る。大きな斧を剣で受け止める攻防が続き後方にいるスカーレットは杖から氷を纏う。
スカーレット 「氷の槍!」
氷で出来た鋭い形状の槍がミノタウロスに向い魔法を詠唱すると身体を貫通しバランスを崩す。
ダヴィ 「ナイス!スカーレット!」
ミノタウロスは氷の槍を手で抜いていくと紫色の血が流れ立ち上がる。
ダヴィ 「くたばれ!剣技・強打斬り!!」
大きく空中に飛ぶダヴィは剣を力強く縦に振ると三日月の額に大きな傷口が広がり、ミノタウロスは倒れ込むとスカーレットは杖に火を纏う。
スカーレット 「火の嵐!」
ミノタウロスはスカーレットが詠唱した火の魔法でメラメラと燃え動きが止まる。ダヴィは地に着地するとスカーレットの方へ振り返る。
ダヴィ 「やったな!スカーレット!ドラゴンがいる地下層まで後もう少しだ———」
ミノタウロスを撃破し喜んでいるダヴィだがスカーレットは顔を真っ青にし突然走り出す。
スカーレット 「ダヴィ!!危ない!!」
ダヴィ 「へ?」
ダヴィは背後を振り返ると大きなドラゴンが口から大きな火の弾を収束していた。スカーレットはダヴィの前へ辿り着くと杖を突き出す。
スカーレット 「障壁!!」
2人を包み込むようにスカーレットは障壁を展開すると、ドラゴンの口から火が放たれる。
ダンジョン内はメラメラと燃える炎で包まれるが、スカーレットは障壁が破れぬよう懸命に杖を前に出し続ける。
スカーレット 「ダヴィ!移動書を出して!」
スカーレットは指示をするがダヴィからの返事が無く首だけ動かす。ダヴィは腰が抜けたのか座り込み全身震わせていた。
スカーレット (ダメだ!急に現れたドラゴンに気が動転しちゃっている!でもこのままだと———2人共死ぬ!)
ドラゴンの放った火が収まるとスカーレットはバリアを解除しダヴィのポーチから移動書を取り出す。
四足歩行のドラゴンは凄まじい速さで迫り大きな爪を立てると、スカーレットはダヴィに抱き着き移動書のボタンを押す。
地上に一瞬でワープすると、震えていたダヴィは見慣れた景色に戻りようやく我に返る。
ダヴィ 「ご、ごめん。スカーレット。俺、何も出来なくて」
腕を動かしスカーレットの肩を掴もうとした途端、全身の力が脱力しダヴィにのしかかるよう前へ倒れ込む。
ダヴィ 「へ————?」
暗くてよく見えないが鉄が錆びたような匂いが微かに漂う。ダヴィはポーチからランタンを取り出すとボタンを押し、恐る恐るスカーレットの身体に近づける。
ランタンの灯りはドラゴンの爪痕が残った背中から大量の血を流すスカーレットの姿を照らす。
ダヴィ 「う、そ、だ…。スカーレットっ!!」
スカーレット 「ワープする瞬間…。ゲフッ!!ドラゴンの爪でやられちゃったみたい…あ…は…は…」
口から血を吐き出す痛々しい姿にダヴィはランタンを地に置きポーチを漁る。
ダヴィ 「大丈夫だ!えっと、ポーションがあったはずだ!ど、どこだ!?」
焦りながらポーチを漁るダヴィの腕をスカーレットはよわよわしく握る。
スカーレット 「もう…良いの…。ダヴィ…あい…し…てる…」
ポーチを漁っていたダヴィはポーションを手に取ると、取り出しスカーレットの唇に触れる。
口に含ませようとポーションの瓶を動かすがスカーレットの唇は動かずダヴィは恐る恐る顔を見つめる。
ダヴィ 「そん…な…事が…あるか…よ…」
スカーレットは微笑んだまま安らかに息を引き取っていた。
ダヴィの腕の力が脱力すると握っていたポーションの瓶がコロンと転がり血とポーションの液体が混じり流れていく。
ダヴィは涙を零し抱き抱えたまま泣き叫ぶ。
幸せに満ちた夫婦生活は5年の短さであっさりと終わった。
スカーレットが亡くなった後、周りの人々がダヴィに対し心配の言葉を掛けるが聞く耳も持たず常にドラゴンを倒す事に執着していた。
ドラゴンの動きを思い出し戦略練り、技を磨き続けダヴィは凄まじい速さで地下29層まで攻略した。
スカーレットが亡くなり半年の時が経つとダヴィはついに赤いドラゴンを1人で倒し冒険者ギルドの英雄となった。
書いている自分もポロポロと泣いてしまいました。
大切な人を亡くす気持ちは本当に辛いです。
読んで頂きありがとうございました!




