第10話 感電
———【6年前】
結婚してから翌日、スカーレットは朝早く調理をする。半熟のふわとろスクランブルエッグとチーズ、焼いたベーコンが薄くカットされた食パンに挟まれたサンドイッチを作るとテーブルの上に運ぶ。
寝起きで呆然としているダヴィはサンドイッチを手に持ち口の中へ含んだ瞬間、顔から活気を取り戻す。
ダヴィ 「美味しい!スカーレットは本当に料理上手だな」
スカーレット 「ふふっ。ありがとう!」
顔を合わせながらサンドイッチをモグモグと食べていると、ダヴィはゴクンッと飲み込みスカーレットの顔を見つめる。
ダヴィ 「俺はダンジョンにいってくるよ。スカーレットは家でゆっくりしていてくれ」
ダヴィがそう話すとスカーレットはサンドイッチを片手に勢いよく立ち上がりテーブルを強く叩く。
スカーレット 「あたしもいくよ!家事だってちゃんとやるし!」
ダヴィ 「スカーレットには少し楽になってほしいんだ」
スカーレット 「あたしだってダヴィを楽にしたいもん!」
頬をプク―と膨らませるスカーレットにダヴィは苦笑する。
ダヴィ 「ありがとう。でも、色々あったんだしせめて一か月は休んでくれ。落ち着いたらダンジョンにいこう?」
如何にも不服そうな表情を見せていたスカーレットは顔がニヤけていく。
スカーレット 「妻!?なんて良い響き!分かった!一か月は大人しくしてる!」
ダヴィ (しばらくは妻ってワードが上手く使えそうだな)
満面の笑みでスカーレットはサンドイッチを頬張る。
ダヴィ 「じゃあ、いってくるよ」
スカーレット 「いってらっしゃ~い!」
ダヴィを笑顔で見送るとスカーレットは洗っていない服がてんこ盛りとなったカゴを見つめる。
スカーレット 「ダヴィったら1人暮らしだから洗濯あんまりしていないなぁ~?やっちゃいますか!」
腕の服を捲るとスカーレットはカゴを持ちベランダへと向かい手洗いする。洗った服を空気を切るように強く振るとベランダにある木で出来た棒に干す。
スカーレットは洗濯物を干していると、すぐ側でここら辺に住んでいる中年女性の人々が集まりチラチラと見つめながら聞こえないようにヒソヒソと話す。
洗濯物を干し終えるとスカーレットはカゴを持ると、ヒソヒソと話す女性達と目がバチンっと合いお辞儀をし家の中へと入る。
スカーレット 「ふぅ~。今日はこんなものかな?さっきコソコソと話していた人達ってきっとあたしのこの赤い瞳が気になったんだろうな…」
スカーレットは席につくとテーブルに肘を置き頬杖で考え込む。
スカーレット 「まぁ…こっちから何もしなければ大丈夫か。それよりダヴィ帰ってくるまで何しよー!」
家の中にスカーレットの叫び声が響き渡る。
———【一か月後】
夫婦生活も慣れ一か月の月日が流れた。スカーレットは近所の中年女性と雑談していた。
「ダヴィは本当にスカーレットちゃんみたいないい子をお嫁に貰って幸せ者ね」
「本当に。両親が亡くなってから皆、心配してたのよ。でもスカーレットちゃんがいるなら、もう安心ね!」
スカーレット 「え、えへへ…。ありがとうございます!あたしもダヴィと結婚出来て本当に幸せです!」
にっこりと笑いながら甘い言葉を口にするスカーレットに中年女性は心を打たれる。
「は~~~!これが若者の愛ってやつね!」
「私達にもそんな日々があったわねぇ…。あっ!愛しの旦那様が帰ってきたわよ!」
ダヴィ 「スカーレット。ただいま」
スカーレットは背後を振り返るとダヴィの元へ駆け寄り腕に手を絡める。
スカーレット 「ダヴィ!おかえり!あっ!おばさま達、お話とても楽しかったです!また!」
スカーレットは丁寧にお辞儀すると2人は手を繋ぎ家の中へと入っていく。
「スカーレットちゃんは魔法使いなのにそこら辺の庶民より礼儀正しくて本当にいい子ね」
「えぇ。きっと天国でご両親も笑っているわ。2人は幸せになってほしいわね」
2人はダヴィとスカーレットの姿を微笑ながら眺め続ける。
———【翌日】
夫婦となり2人は初めてダンジョンに訪れる。地下23層の道を手を繋ぎ歩いているとスカーレットは物があり見つめる。
スカーレット 「あっ!あそこに宝箱がある~~~!中身は何かな~♪」
道端にポツンと置かれている箱に気付きスカーレットは駆け寄る。
ダヴィ (んっ?あの箱の色、紫色だな…。普通は茶色のはずだぞ———もしかしてっ!?)
スカーレットが箱を開けようとするとダヴィは手を伸ばす。
ダヴィ 「まてっ!スカーレット!それは罠だ!ミミック———」
スカーレット 「開けちゃった…」
箱を開けると中から舌が飛び出る。出た舌はどんどん長くなりスカーレットの首元に巻きつく。
スカーレット 「ぐっ!!くる…し…」
ダヴィ 「スカーレットっ!剣技・回天斬り!」
ダヴィは反転し勢いで斬りつけるとミミックの舌が切れジタバタと暴れまわる。スカーレットの首元に巻き付いていた舌が床に落ちると地面に背中を叩きつかれる。
ジタバタと暴れまわるミミックは大人しくなり再び箱を開けると長い舌がダヴィの右手に巻きつき握りしめていた剣が床に落ちる。
ダヴィ 「くそっ!剣が!」
スカーレットは杖から雷をビリビリと纏う。
スカーレット 「おい!箱野郎!あたしの愛しい愛しい旦那様になにしてくれてんだ!あぁん!?感電!」
杖から雷を纏うと雷魔法を放出しミミックはビリビリと痙攣する。
ダヴィ 「うわぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁああ!!お、お、おれまででで雷がぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
ミミックに唱えた雷魔法はダヴィの手に巻きつく長い舌を通じて身体がビリビリし痙攣する。
スカーレット 「あっ!!愛しいの旦那様までビリビリさせちゃった!」
ダヴィは意識を失う。
頬にポタポタと水が落ち、誰かの鼻をすする音が聞こえる。ダヴィは薄っすらと瞼を開ける。
夕焼け空が広がる中、スカーレットが大粒の涙を零しながら泣いていた。
ダヴィ 「スカー…レット…」
スカーレット 「ダヴィ!!あぁ!ごめんなさい!本当にごめんなさい!大切な人を失う所だった!」
ダヴィは泣きじゃくるスカーレットの涙を手で拭う。
ダヴィ 「ははは…。ミミック相手に、何とか生きてて良かった…。もう、泣くな。大丈夫だから」
ダヴィは微笑むとスカーレットの抱き抱える腕の力が増す。
スカーレット 「ごめんなさい」
ダヴィ (あぁ…。この子は本当に素直だ…。ずっと一緒にいられるだなんて幸せだな)
ダヴィはあやすようにスカーレットの頭を撫で続けた。
口調の荒いスカーレットですが、本当はとても素直な子なんです。
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